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【大ヒット小説シリーズ最新作】『トヨトミの暗雲』第2回「共食い」

イラスト/大野博美

イラスト/大野博美

 覆面作家・梶山三郎氏のベストセラー小説『トヨトミの野望』『トヨトミの逆襲』は、「小説ではなくノンフィクションなのではないか」と大きな話題になり、経済界を震撼させた。その続編となる第三弾『トヨトミの暗雲』をNEWSポストセブン上で特別公開。第2回では、巨大自動車メーカー「トヨトミ自動車」が独立系ディーラーに対して不当な圧力をかけている実態が浮き彫りになり……。(第1回「内部告発」から続く)

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共存共栄から弱肉強食へ

 【二〇二一年八月愛知県名古屋市・覚王山】

「外車を売る前に、トヨトミ車を売られたし統一」

 名古屋市内の高級住宅地・覚王山のトヨトミのディーラーを訪れた高杉文乃は、和紙の便箋に毛筆で書かれた手紙を見せられたとたん、マスクの中で吹き出してしまったが、笑いごとではない。文面からは、はっきりと怒りが感じとれた。それも、よりによってトヨトミのトップ直々の手紙だ。

「こんなものが送られてきたんですか?」

 ええ、と向かいに座る取材相手はうなずいた。署名の脇には、トヨトミ自動車社長の豊臣統一が自分をモデルにした「ヒデヨシ」というキャラクターのスタンプが捺されている。

〝ヒデヨシぷんぷん、そこへなおれ〟の顔。音声付き動画のLINEスタンプもあるが、こちらのスタンプは怒気を発してじっとこちらを睨みつけている。その気まぐれさと、大企業経営者とは思えない軽薄さから、一部で「バカ殿様」「こども社長」とも評される統一が、自分のスタンプをトヨトミ社内の決裁書類や企画書にも捺しているという話を聞いたことがあるが、社外向けの手紙にも捺しているとは……。ナメてるのか、それとも、角の立つ文面を少しでも和らげようとしているのか。

 応接室の大きな窓からは、覚王山通りを挟んだ向かいにある高級デパートが見えた。そのガラス張りのエレベーターの中は、平日の日中にもかかわらず混みあっている。道路を走るクルマは値の張る外車が目立つ。このディーラーにしても、ホテルのベルボーイ風の服装に身を包んだ駐車場の誘導員や、商談スペースのやわらかな本革のソファーなど、富裕層向けの趣がある。

 文乃は内心でほくそ笑む。思ったとおりだ。

 横井一則のスマートフォンに記録されていた「不正車検」の決定的な証拠となる動画。トヨトミディーラー最大手「尾張モーターズ」傘下の店舗が組織的に不正車検を行っているという「内部告発」が意味するものは何か。文乃がひらめいたのは、これが昨年から始まったトヨトミの「全車種併売」の影響にちがいないということだった。

 二〇二〇年五月、トヨトミ自動車は全国の販売店で「全車種併売」をスタートした。

 もともとトヨトミは、高級車を扱う「トヨトミ」、中級車の「トヨネット」、量販車の「フローラ」、コンパクトカー中心の「レッツトヨトミ」と4つあった販売チャンネルごとに、販売させる車種を割り当てていた。全車種併売は、この割り当てをなくすもの。つまり、国内に約五千店舗あるトヨトミディーラーのすべての販売店が、トヨトミ車なら高級車から大衆車まであらゆる車種を扱えるようにしたのである。

 ユーザーにとって便利になるのは確かだが、大変なのはディーラーだ。これまでは、たとえ販売店が近接して商圏、つまり〝縄張り〟が重なっていても、共存共栄できたのだ。

 全車種併売はこの棲み分けを破壊するもの。どの店舗も同じ商材で戦うことになるため、共存共栄していた商圏のなかで、店の特色がなくなり、差別化ができなくなる。次に起こることは誰にでもわかることだ。弱肉強食の世界、トヨトミディーラー同士の潰し合いである。

「だから、外車を売る店を作ろうとしたんですよね」

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