桂宮治はこの2つの課題解消へ向け、最適な人材だと言える。例えば、『笑点』と同じく春風亭昇太が司会を務めた6月30日放送『笑点 特大号』の若手大喜利では「泳ぎながら一言」というお題で、こうボケた。
宮治:子供の頃から泳ぎはすごい得意なんです。
昇太:どうしたの?
宮治:ほら、頭頂部お皿みたいでしょ? 前世カッパなんです。
歌丸が抜けた後、『笑点』には自分の毛量をネタにする人物がいなかった。宮治は外見でもメンバーからイジられやすく、初めて見た視聴者にもわかりやすい特徴を持っている。この直後、春風亭昇也が手を上げて、こう答えた。
昇也:私ね、真打ちに昇進した桂宮治なんですけどねえ、溺れそうなんです。
昇太:どうしたの?
昇也:皆さんからもらったご祝儀の海で溺れそうなんです。
これに対し、宮治が「そのイジリやめろ!」と突っ込むと、さらに鈴々舎馬るこが客席を指して「あそこにいるの、税務署の人じゃないですか?」とイジった。宮治を中心に笑いの連鎖が生まれていったのだ。このように年下でイジりやすい宮治の加入で、司会の昇太もやりやすくなるのではないか。往時の『笑点』は林家木久蔵(現・木久扇)が自虐ネタを披露すると、すかさず歌丸が手を挙げてイジり、そこに司会の5代目円楽が「バカだね~」と笑いながら、さらに被せるという黄金パターンがあった。
折り紙付きの落語の実力に加え、キャラクターも出来上がっている桂宮治。『笑点』に新風を吹き起こしてくれそうだ。
■文/岡野誠:ライター。笑点研究家、松木安太郎研究家。NEWSポストセブン掲載の〈検証 松木安太郎氏「いいボールだ!」は本当にいいボールか?〉(2019年2月)が第26回『編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞』デジタル賞を受賞。著書『田原俊彦論 芸能界アイドル戦記1979-2018』(青弓社)では本人へのインタビュー、野村宏伸など関係者への取材などを通じて、人気絶頂から事務所独立、苦境、現在の復活まで熱のこもった筆致で描き出した。