国際情報

2022年の国際情勢予測 佐藤優氏「日本は台湾有事に踏み込めるのか」

作家、元外務省主任分析官・佐藤優氏

作家、元外務省主任分析官・佐藤優氏

 2022年は岸田政権の外交手腕が大いに問われる1年となりそうだ。米国と中ロの「東西新冷戦」が極めて深刻化し、日本が直面する課題とは何か、手嶋龍一(外交ジャーナリスト)、谷口智彦(慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科教授)、佐藤優(作家、元外務省主任分析官)の3氏が座談会を行った。【全3回の第2回】

手嶋:“台湾海峡も波高し”です。しかし、歴代の総理は「台湾有事には日米安保条約を適用して米国と共同歩調をとる」と国会で答弁したことがありません。野党側も、きちんと質問しないのでしょうか。谷口さんが外交・安保のスピーチライターとして仕えた安倍晋三元総理が、この点で踏み込んだ発言をして、中国側の反発を買いました。

谷口:「台湾有事は日本有事である」という発言ですね。中国外交部のスポークスマンが激しく反応しましたが、報道官に言わせる程度では北京の本気度は知れたものです。それに、安倍元総理は同様の発言を以前からしていました。台湾と日本の先島諸島は100kmしか離れていません。台湾有事が日本に影響しないはずはない。日本と日米同盟の有事にもなるというのは常識的な話です。

佐藤:その通りですね。ただ、ここで注意しないといけないのは日本政府の立場。台湾海峡は一番狭いところでも130kmあるから、両岸の領海を越えたところが公海になるわけです。国際法では軍艦が何をしようが、軍事演習をしようが全く問題ない。それでも日本政府が台湾有事に踏み込めるのか。大きな試金石になるでしょうね。

手嶋:人民解放軍が海峡を渡って台湾に侵攻すれば、間違いなく米第7艦隊が出動します。その時、日米安保条約の一方の当事者である日本はどう行動するのか。国会で明確な政府答弁がないのですが、日本政府もいまや踏み込んだメッセージを北京に伝える時です。このままでは、日米安保の台湾有事への抑止力は減じてしまいます。

谷口:手嶋さんのご指摘は、「日本は台湾有事の恐れをよく考えていない」と。ただ安倍政権がつくった(集団的自衛権を一部可能にする)平和安全法制は、台湾有事を想定してこその仕組みです。地理的条件からして、そこは自明の理。北京もしっかりわかっています。といって明白に反発しなかったのは、日米の抑止力が合算で向上すると認めてしまうのが嫌だったからでしょう。岸田(文雄)首相も、よもやこのあたりの事情をご存じないはずはない。ただどれほど切実に血肉化しているかとなると、別問題です。

(第3回につづく。第1回はこちら)

【プロフィール】
手嶋龍一(てしま・りゅういち)/1949年生まれ、北海道出身。慶應義塾大学経済学部卒。NHKワシントン支局長などを歴任。『ウルトラ・ダラー』など著書多数。

谷口智彦(たにぐち・ともひこ)/1957年生まれ、香川県出身。東京大学法学部卒。日経BP社などを経て、安倍政権の官邸での内閣官房参与などを歴任。

佐藤優(さとう・まさる)/1960年生まれ、東京都出身。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主な著書に『自壊する帝国』など。

※週刊ポスト2022年1月14・21日号

関連記事

トピックス

初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
「ウチも性格上ぱぁ~っと言いたいタイプ」俳優・新井浩文が激ヤセ乗り越えて“1日限定”の舞台復帰を選んだ背景
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン