かつては紙の名簿をもとに詐欺師グループは被害者を探した(イメージ、時事通信フォト)

かつては紙の名簿をもとに詐欺師グループは被害者を探した(イメージ、時事通信フォト)

被害者を「こする」

 山本さんを含めたグループチャットに集う「被害者」らは、被害者の会のようなところから声をかけられるとかではなく、自ら「被害にあった」と感じ、パソコンやスマホで検索した末に集った集団だ。そのため、リアルな形で被害者同士の横の繋がりは持っていない人が大半だ。被害にあったのではないかと勘づいたタイミングで、SNSなどを使って情報収集を始めると、すぐに自分と同じような境遇にある人物にたどり着く。そうした人々に接触をして被害者掲示板の存在を知ることになる。しかし、そこはあくまでも匿名、そして自称だらけの空間。匿名が良い作用を及ぼすこともあれば、その逆もある。結局、そのコミュニティに参加する人物が本当に被害者は、確認する術はない。

 筆者が確認した限り、このチャット上では自称被害者達による、ああでもない、こうでもないと非生産的な応酬が展開されていた。山本さんが相談したように別口の出資の誘いにのりそうな人を探す人物もいれば、チャットの書き込み自体が「名誉毀損」にあたるとして訴訟を仄めかすユーザーがいた。ある被害者は氏名や自宅などが別の人物によって晒され、深刻なトラブルに発生しかねないやりとりもあった。

 皆が「金を取り戻したい」と思っているはずなのに、話はたびたび脱線し、参加者同士が誹謗中傷し合う。また、今なお自分が「投資」した金が、実際に「運用」されていると信じているらしい人々による書き込みも相次いだが、こうした人物に「あれは詐欺で運用はされていない」と指摘の声が入れば、また別の方向から「運用は実際にされている」とか「有力者を通じてお願いすれば返金はされる」といった書き込みが寄せられる。嘘の書き込みを持ち上げる「サクラ」のアカウントもあると思われ、絶えず嘘か本当かわからない情報が続々寄せられる。参加者らはチャットに翻弄されている、というのが実態なのだろう。そしてそのうちどれくらいの被害者が、新たな被害に遭っているのか。

 チャットでの彼らをあえて「自称被害者」と書いたのは、参加者1500人の中のうち、一体どれだけの人が純然たる被害者といえるか判然としないためだ。1500人のうち何割かは、新たなターゲットを見つけようとする詐欺師の可能性があることを否定できない。

「チャットに参加している被害者に話を聞くと、そのほとんどがチャットを介して新たな投資事案の紹介を受けていました。そのうちの数人は、すでにその新たな投資とやらに金を突っ込んでいる。詐欺師達は、詐欺被害に遭った人を別の詐欺へ誘い込んで繰り返し騙すことをさして、被害者を『こする』という言い方をするようですが、まさにそれが行われている」(大手紙社会部記者)

 本詐欺事案について被害者向けに情報発信を繰り返している人物が、実は別の投資詐欺事件の協力者であるらしいことも、筆者の取材で明らかになっている。何が本当で何が嘘かわからない中、心身ともに疲弊した被害者心理に漬け込む悪質な行為だが、何度騙されても、詐欺師達が垂らす偽物の「蜘蛛の糸」にすがる人々が後を絶たない。

 被害者が増えれば増えるほど、詐欺師達もまた活発化するし、新たな被害者が生まれる。この負のスパイラルから抜け出すには、一般消費者の意識が変わる必要がある。しかし、そうした「教育」は日本では不十分だ。しかも、最近は大学生が投資詐欺のターゲットにされている実態を思うと、成人年齢の引き下げにより、若者がターゲットになる詐欺は、今後も増え続けるのだろう。子供向けはもちろん、大人向けにもこういったトラブルに遭わないための講習会やオンライン教育などが必要なのかもしれない。

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