カメニェツ・ポジリフキ ミカエル教会(撮影/稲田美織)
2008年にはウクライナ大使館の主催で東京農大において「ウクライナの魂」という稲田氏の写真展も開催された。稲田氏は後に著書『奇跡に出逢える世界の聖地』(小学館)の中で、美しいウクライナの写真とともに以下のように綴っている。
〈森、そして自然によって人々が生かされていることを理解し、自然への畏敬の念のようなものがあるのだろう。あちこちに磐座(いわくら・神様が降臨するといわれる岩)のような巨大岩があって、その頂点には小さい十字架が立てられていた。また、木造教会の建築方法は神社やお寺に通じるものがあり、門や入り口には対でメープル、白柳(しろやなぎ)、樫(かし)の枝が飾ってあった。それはまるで、神社の鳥居や建物に供える対の榊(さかき)のように見え、その共時性に心から驚いた。〉
キエフのペチェルスカ大修道院(撮影/稲田美織)
写真家の目線は日本とウクライナの本質的な親和性を見抜いたのかもしれない。そして、稲田氏がキエフの聖地ペチェルスカ大修道院を訪れた時は、不思議な体験もしたという。
〈ここの神職の方が不思議な話をしてくれた。聖クリメントの頭蓋骨から2000年近く湧き出る奇蹟の聖油は、ソ連時代には一滴も出なかったそうだ。私は思わず手の甲に塗られた油の匂いを嗅いでみた。全く何の匂いもせず、あっという間に手に塗られた聖油は、跡形もなく消えていた。それはあまりにも不思議な出来事だった。〉(同前)
これまで幾度となく繰り返してきた「戦争」という人類の愚行を再び選択しないことを切に願うばかりだ。

