確かに、患者や入所者に感染させない配慮は必要だ。だが、現実を見るとワクチンを打ったのに、医療現場や介護施設では、ブレークスルー感染やクラスター発生が相次いでいる。なかには3回目を打ったのに、感染したというケースも出ている。
そもそもこのワクチンの接種は決して「義務」ではない。事実、厚労省ホームページの「新型コロナワクチンQ&A」には、次のように示されている。
《今回の予防接種は感染症の緊急のまん延予防の観点から実施するものであり、国民の皆様にも接種にご協力をいただきたいという趣旨で、『接種を受けるよう努めなければならない』という、予防接種法第9条の規定が適用されています。この規定のことは、いわゆる『努力義務』と呼ばれていますが、義務とは異なります。接種は強制ではなく、最終的には、あくまでも、ご本人が納得した上で接種をご判断いただくことになります》
したがって、もし本人が嫌がっているのに接種を迫るのは不法行為であり、損害賠償責任を負う恐れがあるのだ。ワクチンをめぐる法的なトラブルの解決に取り組んでいる弁護士が解説する。
「たとえ医療機関や介護施設であっても、『接種を受けない』という自己決定権を侵すようなルールを従業員に強制することは権限を濫用したものとして違法・無効な解雇・配置転換命令であると裁判所に認定され、病院や会社が損害賠償責任を負う可能性があります。
また、このワクチンの導入にあたって改正された予防接種法の附帯決議には、ワクチン非接種者に対する差別やいじめ、職場や学校などにおける不利益な扱いは決して許されない旨が明示されています。本人に接種の意思がないのに、『打たないと試合に出さない』『修学旅行で別の部屋にする』といったことをすれば、やはり自己決定権を不当に侵害する不利益取り扱いということになる。クラブや学校の責任者が民事上の不法行為責任を問われることになります」
今後、政府は3回目の追加接種や5~11才の接種を本格化させるつもりだが、本人や保護者が嫌がっているのに接種を迫るようなことは、絶対にしてはいけないのだ。社会全体としても、同調圧力をかけるような言動は避け、「接種するもしないも本人の選択に任せるべき」という共通認識を徹底させることが大切だ。
また、本人や保護者が適切な選択をするためには、接種によるメリットとリスク両方の情報をしっかりと把握する必要がある。しかし、政府も医療界も接種を推進しようとするあまり、リスクに関する情報を充分に提供してこなかったのではないだろうか。