2月25日、ウクライナとの国境の町ポーランドのメディカにやってきた避難民。愛犬も一緒(dpa/時事通信フォト)
しかしモスクワのペキニーズ飼い、スヴェトラーナはこのやりとりに対して勇気をもって諌めている。
「お互いを大切にすることが大切です。決して自分と他人を分断しないことです。私と家族は心から、みなさんの平和を願っています。私は自分の考えを表した、追加するものは何もない」
ウクライナは間違いなく侵略を受けている被害者だが、ロシア人の多くもまた政治体制が問題なだけで、決してすべてのロシア人が侵略者に加担しているわけではない。
「私のFacebookとMessengerは終わります。(ロシア)政府が禁止にする。私との連絡はメールで!」
やがてこのような書き込みがロシア側の愛犬家たちから寄せられ始めた。実際にロシア当局は26日、Facebookへのアクセス制限を正式に発表した。またFacebookを運営するメタ社もその事実を認めた。戦争が激しくなるウクライナの愛犬家同様に、情報統制でロシアの愛犬家も一人、一人と消えてゆく。
戦争という現実が、なんの変哲もなかった愛犬家コミュニティを崩壊させようとしている――。「味方になってくれ」「お前はどちらだ」とメッセージが来る悲しさ。それまで「うちのペキニーズを見て!」と他愛もない愛犬自慢をしあっていただけなのに。繰り返すがそれまでも政治的な意見交換はあっても、ペキニーズがすべてを解決し、みなを笑顔にしていた場だ。それがいまや排除と批難の戦場になっている。ましてや筆者とつながっているウクライナ人の多くはキエフを始めウクライナ各地で、愛犬とともにリアルな戦場で生命の危機にある。26日になると「シェルターに避難します」「祈りと覚悟を決めました」こんな書き込みが写真とともにタイムラインを流れはじめた。
そして27日、ついにヘルソーンスィカ(ヘルソン)に住むブリーダー、アレクサンドラが砲撃により家を焼かれ、亡くなったとの知らせがFacebookフレンドからもたらされた。彼女はこれまで「家の上を戦闘機」「静けさは終わった、また爆弾」と伝えてくれていた。これが戦争か。筆者はあまりに知らなすぎた。
戦争は、何もかもを分断する。
みんな、愛する犬と微笑んでいたはずなのに――。
※申し出たユーザーのテキストは可能な限りの名前を載せた上で原文重視の翻訳の上で使用したが、内容によっては政治的な配慮のため一部のユーザー名は割愛した。また一部のユーザーは目的の範囲内においての引用、抜粋にとどめた。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)ジャーナリスト、著述家、俳人。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、生命倫理のルポルタージュを手掛ける。