和さんの妹さん
ただの赤ちゃんとは思えない
将一さんが出社する日は、和さんの妹である櫛引遥さん(23才)に助けてもらうこともある。
「娘ちゃんは、やっぱりお姉ちゃんに似ていると思います。長いまつげも、時々“小悪魔”みたいな表情でニタッて笑うところもそっくり。
だから、ただの赤ちゃんとは思えなくて。グズっているのをなだめるときには、声に出して『お願い』って頼んでいます。半分は、この子の中にいるお姉ちゃんに言っているつもりです。そうしたら、ちゃんと言うことを聞いてくれるんです」(遥さん)
和さんの闘病を支えるために、櫛引家は家族そろって青森からの上京を決断した。
悲しみが癒えないなか、一家は現在も東京で暮らす。
「和の父は、夜間の配送ドライバーの仕事を続けています。毎日夕方の6時半に家を出て、帰ってくるのは翌朝の10時頃。運転中に、ふっと和のことが脳裏をよぎると、涙が止まらなくなると言われたことがあって。もしも事故にでもあったらと思うと心配で……」(和さんの母・千春さん)
千春さん自身も、ふとした瞬間に娘を思い出すという。
「悲しいのは、本当に突然ですね。看板にひらがなの『の』が書いてあるのを見ただけで取り乱してしまったこともありました」(千春さん)
それでも立ち止まってはいられない。遥さんには大きな変化があった。今春、大学1年生になるのだ。
「お姉ちゃんが“勉強は大切だよ。大学に行ってみたら?”って言っていたことを思い出して、通信制の大学に通うことに決めました。応用情報技術者の資格を持っているので、これから4年間しっかり勉強して、データサイエンティストの資格を取るつもりです。
3つ下の妹の結花は先月から医療事務の仕事を始めました。お姉ちゃんはいつも結花のことを心配していたから、安心しているんじゃないかな」(遥さん)