ライフ

【逆説の日本史】「日本史の最大の特徴は天皇の存在である」という事実

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)

 ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。近現代編第九話「大日本帝国の確立III」、「国際連盟への道 その1」をお届けする(第1334回)。

 * * *
 最近、日本史をテーマにした講演で私はよく「回り道」という言葉を使う。日本史の特徴を示す用語として、だ。日本の歴史の最大の特徴が、天皇という存在にあることを再認識してもらうためである。

 私が約三十年前にこの『逆説の日本史』を書き出したのは、何度も述べてきたとおり日本の歴史学界があまりにも宗教を無視して日本史を分析していたからだ。そしてその宗教の中核的存在として天皇があることも、私が若いころの歴史学界では無視されがちだった。これにはちゃんとした理由がある。簡単に繰り返せば「天皇のために死ね」という戦前の教育を受けた人々が、それゆえに天皇を激しく憎むようになり、長じて歴史学者やジャーナリストや文化人になると天皇という存在を故意に無視して日本史を語ろうとするようになったからである。そのために歴史研究および歴史教育全体が歪んでしまった。

 若い人には信じられないかもしれないが、「日本史の最大の特徴は天皇の存在である」と主張すると、私の若いころには右翼と罵倒された。私は右翼でも左翼でも無い。そもそも、この「日本史の最大の特徴は天皇の存在である」は、イデオロギーや思想の問題とは関係無く、右翼であろうが左翼であろうが中立であろうが、認めざるを得ない客観的事実である。天皇とは日本以外の国の歴史には存在しない特別な存在である、という認識からスタートしないと日本史はわかるはずが無い。

「回り道」というのはそういうことで、他の国なら藤原氏が奈良から平安時代にかけて日本唯一の権力者になるのも簡単であった。ロシア革命で皇帝一家が皆殺しにされたように天皇一家を皆殺しにしてしまい、これからは自分が天皇だと名乗ればいいわけだ。中国ならそれができるし、ヨーロッパでも中東でもそれができる。単に皇帝や国王を殺しただけなら暗殺犯だが、たとえば中国なら現在の皇帝が持っている軍事力を超える力で皇帝を倒せば、自分が皇帝になることができる。元朝を倒して明朝を建て皇帝となった朱元璋が典型的で、朱一族は元朝の皇帝一族とはなんの血のつながりも無い。しかし王朝交代を実現し、皇帝になることができた。日本以外ではそれが可能なのだ。

 ところが、日本だけそれができない。遅くとも天武天皇のころから、日本を治めるのは天皇家の濃いDNAを持つ者に限るという信仰が確立してしまったからだ。だからこそ藤原氏は苦心惨憺して平安時代には藤原摂関政治を実現した。天皇の幼少時には摂政、元服しても関白と称して天皇家の権力を奪った。これが「回り道」である。外国ではそんなことをする必要が無い。外国なら「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の」と詠んだ「日本一のゴーマン男」藤原道長あたりで、藤原氏が天皇になっている。ちなみに、日本の平安時代に西ヨーロッパではメロヴィング朝が滅びカロリング朝に王朝交代したが、その立役者であるカール大帝はメロヴィング朝の宮宰(日本で言えば侍従長あたりか。あくまで家臣)の子孫である。王様が弱みを見せれば臣下に王位ごと乗っ取られる。それが世界の常識なのだ。

 しかし、日本はそうでは無いから「大変」だった。一昔前は、いやいまでもそうかもしれないが、外国人が日本史を学んだときにもっとも不審に思うのが「源頼朝はなぜ天皇家を根絶やしにして自分が天皇にならなかったのか」ということだった。外国人つまり世界史の常識で言えば、「源頼朝は天皇になっているはず」なのである。頼朝は平家打倒を果たした日本最大の軍事力の持ち主であり、その気になればいつでも天皇一家を皆殺しにできた、と外国人は考えるわけだ。しかし、じつはできない。

関連記事

トピックス

初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、インスタに投稿されたプライベート感の強い海水浴写真に注目集まる “いいね”は52万件以上 日赤での勤務をおろそかにすることなく公務に邁進
女性セブン
東京地裁
“史上最悪の少年犯罪”「女子高生コンクリート詰め事件」逮捕されたカズキ(仮名)が語った信じがたい凌辱行為の全容「女性は恐怖のあまり、殴られるままだった」
NEWSポストセブン
橋幸夫さんが亡くなった(時事通信フォト)
《「御三家」橋幸夫さん逝去》最後まで愛した荒川区東尾久…体調不良に悩まされながらも参加続けていた“故郷のお祭り”
NEWSポストセブン
麻原が「空中浮揚」したとする写真(公安調査庁「内外情勢の回顧と展望」より)
《ホーリーネームは「ヤソーダラー」》オウム真理教・麻原彰晃の妻、「アレフから送金された資金を管理」と公安が認定 アレフの拠点には「麻原の写真」や教材が多数保管
NEWSポストセブン
”辞めるのやめた”宣言の裏にはある女性支援者の存在があった(共同通信)
「(市議会解散)あれは彼女のシナリオどおりです」伊東市“田久保市長派”の女性実業家が明かす田久保市長の“思惑”「市長に『いま辞めないで』と言ったのは私」
NEWSポストセブン
二刀流復帰は家族のサポートなしにはあり得なかった(getty image/共同通信)
《プールサイドで日向ぼっこ…真美子さんとの幸せ時間》大谷翔平を支える“お店クオリティの料理” 二刀流復帰後に変化した家事の比重…屋外テラスで過ごすLAの夏
NEWSポストセブン
左から広陵高校の34歳新監督・松本氏と新部長・瀧口氏
《広陵高校・暴力問題》謹慎処分のコーチに加え「残りのコーチ2人も退任」していた 中井監督、部長も退任で野球経験のある指導者は「34歳新監督のみ」 160人の部員を指導できるのか
NEWSポストセブン
松本智津夫・元死刑囚(時事通信フォト)
【オウム後継「アレフ」全国に30の拠点が…】松本智津夫・元死刑囚「二男音声」で話題 公安が警戒する「オウム真理教の施設」 関東だけで10以上が存在
NEWSポストセブン
9月1日、定例議会で不信任案が議決された(共同通信)
「まあね、ソーラーだけじゃなく色々あるんですよ…」敵だらけの田久保・伊東市長の支援者らが匂わせる“反撃の一手”《”10年恋人“が意味深発言》
NEWSポストセブン
鉄板焼きデートが目撃されたKing & Princeの永瀬廉、浜辺美波
《デートではお揃い服》お泊まり報道の永瀬廉と浜辺美波、「24時間テレビ」放送中に配慮が見られた“チャリT”のカラー問題
NEWSポストセブン
海外のアダルトサイトを通じてわいせつな行為をしているところを生配信したとして男女4人が逮捕された(海外サイトの公式サイトより)
《公然わいせつ容疑で男女4人逮捕》100人超える女性が在籍、“丸出し”配信を「黙認」した社長は高級マンションに会社登記を移して
NEWSポストセブン
サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(X、時事通信フォト)
大麻成分疑いで“ガサ入れ”があったサントリー・新浪剛史元会長の超高級港区マンション「かつては最上階にカルロス・ゴーンさんも住んでいた」
NEWSポストセブン