奈良線103系普通電車。2022年3月に定期運行を引退したが、こちらもサイレントラストランだった(時事通信フォト)

奈良線103系普通電車。2022年3月に定期運行を引退したが、こちらもサイレントラストランだった(時事通信フォト)

車両の引退セレモニーやイベントは減少

 小田急の白いロマンスカー以外にも、今春のダイヤ改正で引退した車両や運行を終了した列車はある。例えば、JR西日本管内では1963年に山手線で運行を開始した103系が走っていた。103系は今春のダイヤ改正で、奈良線での定期運行を終了。これに関してもセレモニーやイベントは実施されていない。

 これまでのラストランは鉄道会社が大々的にセレモニーを挙行してきた。しかし、最近は様子が異なる。車両や列車が静かに姿を消していく。その様子は、鉄道ファンから「サイレントラストラン」と形容される。一部のファンからは、「これまで応援してきたのに、何も知らせないで引退させることは、ファンを軽視している」という怒りの声も出る。

 これは、言外に「応援してきたファンに対する感謝が足りない」という思いの裏返しともいえるが、JR西日本近畿統括本部の担当者は「奈良線における運行は終わりましたが、103系が引退するわけではないので、特にセレモニーはしませんでした」と説明した。

 同じく今春のダイヤ改正で、115系が定期運用を終了した。国鉄時代の1967年から走り始めた115系は、新潟の顔とも言える車両でもあった。しかし、こちらも引退セレモニーは実施されていない。

 JR東日本新潟支社の担当者は「引退車両すべてでセレモニーをするわけではありません。やる・やらないの基準は明確ではありませんが、115系はやろうという意見が出ませんでした」と引退セレモニー非開催の理由を説明した。

 鉄道各社の話を聞いてみると、決して意図的にラストランのセレモニーを非開催にしているわけではないようだ。しかし、開催に積極的とも言い難い。その背景には、少なからずコロナ禍という世相が関係していることは間違いない。

 ラストランはその列車に乗る乗客だけではなく、最後の勇姿を見ようと足を運ぶ鉄道ファンが多く集まる。決して広くないホームに、鉄道ファンが押しかけることで大混雑となる。今回、ほかの鉄道会社にもラストラン対策を問い合わせたが、各社の担当者たちは一様に「コロナ禍なので…」と密をつくらない工夫に頭を悩ませていた。

 また、コロナ禍でなくても、ラストランは多くの人たちがホームに結集する。そのような事態は事故発生のリスクが高まる。鉄道事業者にとって、そうした状況は回避したい。前出の115系は、定期運行終了後の3月26、27日に撮影会の開催が発表されている。ラストランのセレモニーは非開催なのに、有料の撮影会を実施するのはなぜなのか?

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