林家木久扇と旧知の毒蝮三太夫が対談
毒蝮:談志も木久ちゃんも、自分にないものを持っている同士で惹かれ合ったんだろうね。俺もそうだったのかな。仲は良かったけど、芸談は一度もしたことない。
木久扇:そういうのは得意な方や好きな方が、ほかにたくさんいらっしゃいますから。
毒蝮:そうなんだよ。タチが悪いのは、自分を上等に見せようとする利口バカだ。バカの道を堂々と歩んでいる木久ちゃんと比べると、そいつらの薄っぺらさが際立つね。
木久扇:噺家の先輩で尊敬すべきバカといえば、やっぱり先代の林家三平さんですね。バーで飲んでるときも、ずっとあの調子で、「たいへんなんスから、もう」ってやってる。怒ったのは見たことない。
毒蝮:歌手の戸川昌子さんがやってた「青い部屋」ってバーが青山にあってさ。談志が俺を連れて行ったの。そしたらカウンターで俳優の森雅之さんがひとりで飲んでた。『羅生門』や『浮雲』に出てた二枚目の名優だ。いい格好だよね。そこに三平さんがすっと寄って行って、「こんばんは、加山雄三です」って。
木久扇:森さんは困ったでしょうね。どう反応していいかわからない。
毒蝮:でも三平さんは、また帰りがけに「どうもすいません、加山雄三です」ってやってた。バカを演じ切る人だったね。
木久扇:談志さんが毎晩通ってた銀座の「美弥」でも、いろんな方にお会いしました。
毒蝮:別名「夜の連絡事務所」ね。芸人もいっぱい来たし、俳優や政治家もいた。紀伊國屋書店の創業者の田辺茂一さんには、ずいぶんごちそうしてもらったな。いつもくだらねえダジャレ言ってた。北陸の温泉でマッサージ呼んだら、端ばっかり揉んでる。「肩もやってくれ」と言ったら「ここは肩揉まず(片山津)です」とか、そういうの。
木久扇:月の家円鏡さん(のちの橘家圓蔵)と銀座のクラブに行ったら、田辺さんがいらして同じ席で飲んだんです。田辺さんがダジャレばっかり言ってるもんだから、円鏡さんが頭に来て、田辺さんがよそ見をしてるスキに、レミーマルタンかなんか高いお酒が入ったグラスを取って、横にあった植木の鉢にぶちまけちゃった。
毒蝮:植木を酔っぱらわせちゃったわけだ。俺は「美弥」で、円鏡さんが田辺さんの頭から水割りをぶちまけて、びしょびしょにしてる場面を目撃したことがある。田辺さんはニコニコしながら「気が済みましたか」って言ってた。
木久扇:蝮さんやぼくがお付き合いしてきた噺家さんたちは、みんなハチャメチャでしたね。