そのたびにスッと立ち上がれればいいけど、そこがホレ60代。気持ちと体がワンテンポずれるのは仕方がないとして、困るのは若い役人の口上がまったく理解できないこと。
「○○法案の××について取りまとめましたのでご精査ください。云々云々……」とか言われて茶封筒を渡されても、途中からちんぷんかんぷん。「大丈夫です。みんなわからないですから」と政策担当秘書のN氏は言うけれど、長い取材人生、相手の言っていることが理解できない体験は初めてだ。N氏に茶封筒を手渡せば私の仕事は完了だけど、それにしても不思議。いまどき、紙に書いた書類を高学歴・高収入の役人が隣町の霞が関からわざわざ運んできて、議員一人ひとりに手渡す必要ってあるの? 政界19年のベテラン秘書N氏は「必要ないことも多いでしょうね。でも慣例ですから」と言うの。
慣例といえば、もっと不思議に思うのがたった5分の本会議よ。「異議なし!」と声をあげる。その一言のために、衆議院議員465人が日本全国から国会議事堂に全員集合することが年に何回もあるの。そのとき、議員の交通費はもちろん国のお金だし、議員が動けば秘書も動く。国会議事堂の職員も、国会専門の警察官、衛視さんも出勤する。それだけ重大な決定事項かもしれないけど、ならば国民がリアルタイムで見られるリモート議決にはできないのかしら。
衆議院の採決って、1人ずつ壇上に上がって、賛否の紙を箱に入れるのね。前もって多数派の与党が賛成しているのはわかっているから、まったくの茶番。参議院では賛否をボタンで押すシステムが導入されているけど、衆議院は相変わらず挙手だの投票だの。「慣例」といったら頭が働かなくなっちゃうのか、みんな、いまのいまが過ぎればそれでよし。以前と変わりなければバンバンザイとしか考えていないのかなと思っちゃう。
その日暮らし歴65年の私が言ったところで説得力に乏しいかもしれないけど、コロナ禍が終わらないうちに、ウクライナ戦争が起きて、電気代や食品代が値上げされる現実は切実よ。私たちの日常がほころび始めている。確かなことといったら、昨日と同じ明日が来ないこと。その明日をつくるのが政治だとしたら、「ちょっと、何やってんのよ。多くの民間の企業が普通にやっていることはやろうよ」と、アルバイトおばちゃんは言いたくなるのでした。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2022年4月21日号