円を変動相場制へ移行した1973年、1ドル=360円から円が急騰した。東京・中央区の東京銀行本店で刻々変化するドル相場の対応に忙しい銀行員(時事通信フォト)

円を変動相場制へ移行した1973年、1ドル=360円から円が急騰した。東京・中央区の東京銀行本店で刻々変化するドル相場の対応に忙しい銀行員(時事通信フォト)

買い負ける円安です

「同じ額でも当時の円安とは違います。物価も違いますしね。国の実力、衰退そのままに円の価値が下がっている今は悪しき円安でしょう。買い負ける円安です」

 これについては『憂国の商社マンが明かす「日本、買い負け」の現実 肉も魚も油も豆も中国に流れる』『商社マンが明かす世界食料争奪戦の現場 日本がこのままでは「第二の敗戦」も』『なぜポテトはSのままなのか 日本の港がコンテナ船にスルーされる現実も』『ウクライナ侵攻の裏で進む世界食料争奪戦 激安を賛美する日本の危うさ』と昨年末からこれまで一貫して取り上げてきたが、すべての元凶は「悪しき円安」にあり、それによる「買い負け」と国力の衰退にある、という論は互いに一致している。

「自動車を輸出しているのだから円安歓迎なんてとんでもない。日本はその自動車すら部品も、その資材や素材も輸入しているのですから。日本は輸入大国なんです。海外でノックダウン生産するにしても同じことです。一から自国で調達できないのですから」

 米を除く主要穀物(大豆、小麦、トウモロコシ)の90%、主要エネルギー資源(石油、石炭、天然ガス)および鉱物資源(銅、亜鉛、ニッケル、ベースメタル、レアメタルなど)のほぼ100%を輸入に依存する日本で円安が進めば、それはみなさん肌身で感じている通りの物価高に直結するのは自明の理である。物価高どころか半導体や電子部品のようになれば「欲しい物が手に入らない」状態に陥る。現に納期遅延、受注中止とそうなりつつある。

「経常収支が赤字なんです。つまり日本自体の力がない。アメリカとの金利格差もありますが、かつての円安とは違うんです。まさに、買い負ける円安です」

 2月の貿易統計は6683億円の赤字だった。思えばこの「買い負け」、筆者もこれまで日本が「買い負け」するとは夢にも思わなかった。日本は経済大国で、円安だろうと円高だろうと景気がよかろうと悪かろうと欲しい物を市場で手に入れられると当たり前のように思ってきた。買ったものを日本に運んできてもらうこともまた、当たり前のように思ってきた。それがいまや他国に買い負け、船すら他国に取り負けるどころか港に寄り渋られて、予定した寄港を取りやめる「抜港」までされる体たらくだ。

「昔は『1ドル200円とかだった』って言う年寄りもいますけど、国内製造中心で冷戦下の環境とは違いますからね。東側諸国が最初から経済競争を放棄しているような時代の日本とは違いますよ」

 冷戦崩壊後、イデオロギーによるディスアドバンテージを負っていた旧東側の国々も資本の国際競争に参入してきた。もちろん最大の勝ち組は中国、13億の人口と圧倒的な資源、高い自給率を誇る豊富な食料、300発の核兵器、その上で積極的に日本から資本や技術を取り入れて21世紀の新大国に名乗りを上げた。日本はその中国を下請けに使いながらも買い負け続けるという不思議な負け戦にハマってきた。その立場もいまや逆転しかけている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン