この見解を裏付けるのが、厚労省の「意見変更」だ。過去に厚労省は、「正しい食事の基準」として、コレステロールの基準値を決めていた。
「しかし『日本人の食事摂取基準』の2020年版で厚労省は、『コレステロール摂取量がそのまま血中総コレステロール値に反映されるわけではない』として、コレステロールの基準値を『設けない』と明記しています。食べ物のコレステロール値を細かく計算しても意味がないことを厚労省が認めたのです」
油悪玉論の背後にある日本人の「痩せ願望」にも警鐘を鳴らす。
「適正体重のバロメーターとなるBMI(*)が25だと、日本では『肥満』の境界になります。しかし内外の研究によれば、BMIが25前後の人が最も長生きすることがわかっています。もちろん過度に太ると糖尿病や脂肪肝などのリスクが増しますが、痩せすぎても肺炎患者が増えます。そもそも日本人は医学的に見て平均的に痩せていますが、身長160cmで60~70kgくらいなら健康体と言える。日本人は痩せ願望が強いですが、実は“ちょい太り”程度が最も健康的なのです」
【*BMI(体格指数)は体重÷身長÷身長(身長はmで計算)】
以上の点を踏まえ、大脇医師は「高齢者こそ油を摂るべき」と提言する。
「高齢になるほど食が細くなり、油ものは胃にもたれるからと敬遠していると、痩せ細って筋肉量が少なくなり、全身が脆弱になります。これが高齢者のフレイル(虚弱)と言われる問題です。高齢者がたんぱく質と脂質を含む油ものを摂取すると健康上のメリットがあることは科学的に確かで、無理に食べさせることは避けるべきですが、なるべくなら高齢者こそ油を摂ってほしい」
ビールは我慢しなくていい?
大脇医師の主張に通底するのは、「健康情報に惑わされないでほしい」という思いだ。巷で信じられている「健康情報のウソ」についてこう語る。
「痛風になることを防ぐため尿酸値を気にしてプリン体ゼロのビールを飲むことには意味がありません。尿酸値と痛風に統計的関連があることは事実で、アルコールは尿酸値を上げますが、禁酒や節酒指導によって血中の尿酸を減らし、痛風を防いだというエビデンスはありません。
そもそもプリン体はあらゆる食べ物に含まれていて、重量あたりのプリン体の量で計算するとビールよりも肉や魚のほうが10~100倍も多い。なのに『ちりめんじゃこを毎日食べたら痛風になるよ』とは言われませんよね。痛風にならないためにビールを我慢することには根拠がなく、アメリカのガイドラインも節酒などの食事療法にはエビデンスがないことを明記しています」