「自虐的な発言をすることも増えた」と佐野さん(撮影/小倉雄一郎)
振り返れば、俳優として何十年もの間、がむしゃらに突っ走ってきたので、心身ともに酷使し続けてはいました。発症した頃はとくに、こんなに忙しいのは生まれて初めて、というほど忙しかったんです。コロナの影響で撮影時期がずれると、次の撮影予定とスケジュールが重なったりして、4~5本並行して撮っていましたから。仕事が忙しいのはありがたかったのですが、コロナの恐怖もあるし、かかっちゃいけない、でも撮らないといけない、と常に気が張って緊張していました。すでに病魔にはおかされていたのでしょうけれど、身体が悲鳴をあげていたのかもしれません。“壊れた”という感じかな。少し体重も落ちていましたし」
ここ数年は “自分の死”を意識する自虐的な発言も増えていた。
「大ヒットしたドラマ『ずっとあなたが好きだった』(TBS)で親子役で共演した野際陽子さんが亡くなったとき(2017年)、僕が木馬に乗っているシーンがテレビで何度も映し出されているのを見て、『僕が亡くなったら、このシーンが絶対使われるんだろうなあ』と言ってみたり、63歳でホラー作『限界団地』で連続ドラマに初主演したのですが、共演した江波杏子さんが2018年、山谷初男さんが2019年、小松政夫さんが2020年と次々と亡くなっていき、『次はオレかな』と発症前に言ってみたり。口にすると本当になったりするので、言わない方がいいな、と思うようになりました。
がん公表後、この病気を乗り越えた方々がツイッターなどにメッセージをくださって、僕はその言葉に『悲観することはないぞ』とすごく励まされました。言葉が僕の細胞に直接影響するのでは、と思うほど。言葉には力がありますね」
命の危険を乗り越えた経験をしたことで、死生観にも大きな変化はあったのだろうか。