「むしろ、やはりな、と思いました。演じることで得た死生観でもあるのですが、たとえば歴史物を演じる場合、今を生きている自分が、昔の亡くなった人の時間を追体験するわけです。過去のことですが過去の他人事ではなく、その役の心情を自分の体に染み込ませて生きているんですね。
だから、死んでいるのに生きている、生きているのに死んでいる。では、そこで何が大事かというと、一瞬一瞬を味わうことなのだ、と。今回、具体的に死と向き合ってみて、やはり一瞬一瞬を味わうことに勝る幸せはないのだ、と改めてはっきり認識しました。ただ生きて、幼少期から心を動かされてきたこと──おいしいものとの出会いや素敵な音楽、美しいと思ったこと、家族との時間──それが自分を作ってきたんだな、と。その一瞬一瞬を忘れずに自分の命をまっとうしたいと思います」
表現者として、思うところもあった。
「これまでは、至らない自分に強いコンプレックスを抱いていました。なぜもっとできないのか、もっとできたんじゃないのか、と敗北感の連続でした。でも、そのダメなことを含めてオレなんだ、と。過ぎたことは取り戻せないので、いくら後悔してもしかたがない。そう受け入れれば、もう少し表現者として生きられるんじゃないか、と。そうやって85歳ぐらいまで生きて、『あれ、まだ生きてたの?』と言われたいですね(笑い)」
佐野さんの怪演を楽しみにしているファンは多い。ファンにとっては、「なんだ、あんなに心配して損した!」と言わせてほしいところだろう。