国内

壁を壊した男・1993年の小沢一郎 誕生会で「君らの想像を超える展開になる」

野党にも再編の動きがあった年だった(左から社民連の阿部昭吾、江田、社会党の山花貞夫、赤松広隆の各氏。写真/共同通信社)

野党にも再編の動きがあった年だった(左から社民連の阿部昭吾、江田、社会党の山花貞夫、赤松広隆の各氏。写真/共同通信社)

【1993年の小沢一郎・連載第2回】権力の源泉とも言うべき“ドン”金丸信の逮捕は、むしろ小沢一郎の背中を押した。“橋”の次は“壁”を壊すしかない──それが小沢一郎の出した答えだった。ジャーナリスト・城本勝氏がレポートする。(文中敬称略。第1回から読む

 * * *

お天道様

 前自民党副総裁・金丸信が巨額の脱税容疑で逮捕された翌日三月七日は日曜日だった。その夕刻、私は東京・世田谷区深沢の小沢一郎の私邸にいた。まだ報道陣が待機する正面の入り口を避けて屋敷の裏手から事務所のある建物に通じる「木戸口」を使った。あらかじめ住み込みの秘書に連絡して内カギを開けてもらっていたのだ。中で待っていた秘書に無言で挨拶して玄関を入ると、右手に事務室、その奥に応接室がある。小沢はソファに座り私の顔を見ると「おう」と言った。直前まで誰かと会っていたのかネクタイを締めたままで、いつもの落ち着いた表情だった。

「エライことになりましたね」と言う私に、小沢は「いや、驚いた。金丸さんがあんなに蓄財していたとはなあ」と言いながら頻りに左右の掌をこすり合わせている。何かを考えている時の小沢の癖だ。

 小沢はこの日の昼、予定していた佐世保行きを取りやめて、急遽私邸に番記者を集めて「懇談」している。非公式な会見だが、オンレコ、つまり内容をそのまま記事にできる場合もある。NHKの「現役」の番記者も出席したこのオンレコ懇談で、小沢は、金丸逮捕を受けて「政治資金は一円まで透明化、規正法違反の罰則強化を実行すべきだ。そして腐敗を生む中選挙区制を変えるため選挙制度改革も一括して進めるべきだ」と強調した。あくまで強気に、これを機に改革を加速すべきだというのである。

 しかし、すでに郵政相の小泉純一郎は、「もはや選挙制度など議論している場合ではない。政治とカネの問題を徹底してやるべきだ」と“絶叫”していたし、反経世会として結成されたYKKの残る二人、加藤紘一と山崎拓も、そろって「竹下派の金権体質が露呈した。その真ん中にいた小沢に改革を語る資格があるのか」と批判していた。

 果たして小沢のその強気が世間に通用するだろうか。何か策はあるのだろうか。私は、それを取材するため密かに小沢に接触することにしたのだ。

「これで政治とカネの問題への批判が厳しくなる。すると宮澤喜一・首相と梶山静六・幹事長も政治改革を進めざるを得ないという状況ですね」

 私がそう問いかけると、小沢は

「そうだ。宮澤総理は追い込まれるよ。梶さんだってそうだ。わが派以外にも自民党の若手には、政治改革をやらないと脱党するというのが結構いるそうじゃないか。執行部も何もしないわけにはいかんだろう」

 と言った。私はあえて聞いた。

「一方で、竹下・金丸直系の小沢は動けなくなるという人もいる。むしろ批判が強まりますね。どんなふうに転がると見ていますか」

「どうかな……」と小沢は暫く考え込んでいたが、やがて言った。「しかし、面白いじゃないか。これで渡ってきた橋を焼き落とすしかなくなった。それは梶さんたちも一緒だ。みんな後戻りはできなくなったということだ。生きるか死ぬか、これからが本当の権力闘争だ」

 小沢は立ち上がった。

「今日のところはそこまでだ。後はお天道様に聞いてくれ、だな」

 そう言うと母屋に立ち去ろうとした。私も「そうですか。なるようにしかならない、ということですかね」と言って立ち上がった。

 金丸逮捕という重大な事態に直面したからこそ、政治改革を前進させるしかない──昼間の小沢発言が、単なる「強がり」なのか、それとも何か勝算があるのか、これだけでは判然としない。しかし、私は深追いしなかった。小沢は何事かを考えている。まだ答えが見つかっていないのだろう。その答えが出るまで待つしかない……。

関連記事

トピックス

万博で身につけた”天然うるし珠イヤリング“(2025年8月23日、撮影/JMPA)
《“佳子さま売れ”のなぜ?》2990円ニット、5500円イヤリング…プチプラで華やかに見せるファッションリーダーぶり
NEWSポストセブン
次の首相の後任はどうなるのか(時事通信フォト)
《自民党総裁有力候補に党内から不安》高市早苗氏は「右過ぎて参政党と連立なんてことも言い出しかねない」、小泉進次郎氏は「中身の薄さはいかんともしがたい」の評
NEWSポストセブン
阪神の中野拓夢(時事通信フォト)
《阪神優勝の立役者》選手会長・中野拓夢を献身的に支える“3歳年上のインスタグラマー妻”が貫く「徹底した配慮」
NEWSポストセブン
9年の濃厚な女優人生を駆け抜けた夏目雅子さん(撮影/田川清美)
《没後40年・夏目雅子さんを偲ぶ》永遠の「原石」として記憶に刻まれた女優 『瀬戸内少年野球団』での天真爛漫さは「技巧では決して表現できない境地」
週刊ポスト
朝比ライオさん
《マルチ2世家族の壮絶な実態》「母は姉の制服を切り刻み…」「包丁を手に『アンタを殺して私も死ぬ』と」京大合格も就職も母の“アップへの成果報告”に利用された
NEWSポストセブン
チームには多くの不安材料が
《大谷翔平のポストシーズンに不安材料》ドジャースで深刻な「セットアッパー&クローザー不足」、大谷をクローザーで起用するプランもあるか
週刊ポスト
ブリトニー・スピアーズ(時事通信フォト)
《ブリトニー・スピアーズの現在》“スケ感がスゴい”レオタード姿を公開…腰をくねらせ胸元をさすって踊る様子に「誰か助けてあげられないか?」とファンが心配 
NEWSポストセブン
政権の命運を握る存在に(時事通信フォト)
《岸田文雄・前首相の奸計》「加藤の乱」から学んだ倒閣運動 石破降ろしの汚れ役は旧安倍派や麻生派にやらせ、自らはキャスティングボートを握った
週刊ポスト
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《不倫報道で沈黙続ける北島康介》元ボーカル妻が過ごす「いつも通りの日常」SNSで垣間見えた“現在の夫婦関係”
NEWSポストセブン
秋篠宮家の長男・悠仁さまの成年式が行われた(2025年9月6日、写真/宮内庁提供)
《凜々しきお姿》成年式に臨まれた悠仁さま 筑波大では「やどかり祭」でご友人とベビーカステラを販売、自転車で構内を移動する充実したキャンパスライフ
NEWSポストセブン
《悠仁さま成年式》雅子さまが魅せたオールホワイトコーデ、 夜はゴールドのセットアップ 愛子さまは可愛らしいペールピンクをチョイス
《悠仁さま成年式》雅子さまが魅せたオールホワイトコーデ、 夜はゴールドのセットアップ 愛子さまは可愛らしいペールピンクをチョイス
NEWSポストセブン
【動画】伊東市田久保市長 支援者が明かす“市長の思惑”
【動画】伊東市田久保市長 支援者が明かす“市長の思惑”
NEWSポストセブン