日本政治がもっとも熱く、激しかった1年間を振り返る

日本政治がもっとも熱く、激しかった1年間を振り返る

ケジメ論

 小沢の最側近・中西啓介の麹町のマンションに行ったのは、その夜遅くだった。小沢番OBとはいえ現在は野党担当の私が自民党議員に「夜回り」をかけるのは、一種の領空侵犯だが、こんな時は構っていられない。他社のハイヤーが止まっていないのを確かめてインターホンを押した。

 部屋では、いくらか疲れた様子で中西が待っていた。「冷蔵庫から好きなもの出して飲め」と言われて私はビールをもらった。中西は酒を飲まない。「どうなりますか」と聞く私に中西はひと言「シナリオが狂った」と言った。私は、やはり小沢たちの想定とは違う展開になっていると思った。

「政治改革は進めろという圧力が強まるでしょうから、執行部も苦しいと思いますが、それにしても、小沢先生は動けないのではないですか。野党の中でも証人喚問で何とか乗り切った『ケジメ論』が再燃するんじゃないでしょうか」

 中西はニヤリと笑いを浮かべ「ケジメ論ね。それは離党しろということか? なら離党してやろうじゃないか」と言った。

「まあ冗談じゃなく、これで分裂が加速するかもしれんぞ。実は、社会党の連中とも連合の山岸(章)会長とも話した。自動車総連の得本(輝人)会長も応援すると言ってくれている。お前さんも知っての通り、自民党の中にも二十人ほど離党したいと言うのがおる。もう少し先を狙って準備しておったが、動きが急になってきた。だが、正直なところ展開は読めていない。出たとこ勝負になるな」

 こうした取材ではメモは取らない。話を聞きながら、分裂加速、山岸、得本、若手二十人という具合に固有名詞や数字を頭に刻んで、部屋を出てから手帖にメモをする。

 事態は、思わぬ具合に転がりだしたようだ。私は、徐々に体内にアドレナリンが回り始めているのを感じていた。

万年野党

 三月一一日午前九時。衆議院第二議員会館の地下にある第四会議室。江田五月が前年旗揚げした議員集団「シリウス」が緊急会合を開いていた。「金丸ショック」は野党側にも衝撃を広げていた。会の冒頭、江田が発言した。

「政界再編の動きが止まったとか自社体制が強まるという人がいるが、そんなことはない。羽田・小沢も自民党を飛び出すしか選択肢はなくなったのではないか」

 メモを取っていた私は「あっ」と思った。数日前に発売された雑誌「月刊Asahi」に掲載された小沢との対談で、江田は、小沢の政治手法や体質の問題に最後まで疑問を呈しながらも、政界再編にかける小沢の覚悟に期待する発言をしていた。

〈やっぱり一発ズドーンと引き金を引くのは小沢さんたちが自民党を飛び出すということだろう、と僕は思いますよ(笑い)〉と。

 対談の時点では、半ば冗談のつもりだったのだろうが、政治は当事者の予測を超えて大きく動くことがある。その機会を逃さずに決断し行動していけるかどうか。江田は両手の拳を強く握りしめ何者かを睨みつけるような眼をして結んだ。

「羽田派が自民党を飛び出すようなことになれば、対岸の火事は大きいほうが面白いと言っていられない。身を切り刻みながら皆で政治を変える動きを作らなければならない」

 江田五月だけではない。民社党書記長の米沢隆は同じ日、私の取材に「小沢が動きにくくなるどころか、これで政界再編に動き出す」と話した。翌一二日には日本新党の細川護熙が福岡で「羽田派は自民党を離れるだろう。そうなれば共同歩調を取ることもあり得る」と述べている。

 自民党そのものの存立の危機の中で、退路を断たれた小沢は思い切った行動に出ざるを得ない。その時、政治手法も体質も違う小沢たちと本当に手を組めるのか、野党側の議員たちも「万年野党」の壁を破って新たな世界に飛び出せるか、退路を断たれようとしていた。

関連記事

トピックス

ビエンチャン中高一貫校を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月19日、撮影/横田紋子)
《生徒たちと笑顔で交流》愛子さま、エレガントなセパレート風のワンピでラオスの学校を訪問 レース生地と爽やかなライトブルーで親しみやすい印象に
NEWSポストセブン
鳥取の美少女として注目され、高校時代にグラビアデビューを果たした白濱美兎
【名づけ親は地元新聞社】「全鳥取県民の妹」と呼ばれるグラドル白濱美兎 あふれ出る地元愛と東京で気づいた「県民性の違い」
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン
『ルポ失踪 逃げた人間はどのような人生を送っているのか?』(星海社新書)を9月に上梓したルポライターの松本祐貴氏
『ルポ失踪』著者が明かす「失踪」に魅力を感じた理由 取材を通じて「人生をやり直そうとするエネルギーのすごさに驚かされた」と語る 辛い時は「逃げることも選択肢」と説く
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信フォト)
オフ突入の大谷翔平、怒涛の分刻みCM撮影ラッシュ 持ち時間は1社4時間から2時間に短縮でもスポンサーを感激させる強いこだわり 年末年始は“極秘帰国計画”か 
女性セブン
10月に公然わいせつ罪で逮捕された草間リチャード敬太被告
《グループ脱退を発表》「Aぇ! group」草間リチャード敬太、逮捕直前に見せていた「マスク姿での奇行」 公然わいせつで略式起訴【マスク姿で周囲を徘徊】
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《巨人の魅力はなんですか?》争奪戦の前田健太にファンが直球質問、ザワつくイベント会場で明かしていた本音「給料面とか、食堂の食べ物がいいとか…」
NEWSポストセブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《梨園に誕生する元アイドルの嫁姑》三田寛子と能條愛未の関係はうまくいくか? 乃木坂46時代の経験も強み、義母に素直に甘えられるかがカギに
NEWSポストセブン
大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン