では、あらためて考えてみよう。帝国主義とは一体なにか? 一般的な定義は次のようなものである。
〈政治・経済・軍事などの面で、他国の犠牲において自国の利益や領土を拡大しようとする思想や政策。狭義には、資本主義の歴史的最高段階として19世紀後半に起こった独占資本主義に対応する対外膨張政策。「―戦争」〉(『デジタル大辞泉』小学館刊)
解説文中の「狭義には」以下は前回述べたように、まさにレーニンがその著作『帝国主義論』(『資本主義の最高段階としての帝国主義』)で確立した概念で、幸徳の時代には無い。では、幸徳自身は帝国主義をどのように定義していたのか。
〈帝国主義は「愛国心」を経とし、「軍国主義(ミリタリズム)」を緯として、織りなされた政策ではないだろうか。少なくとも愛国心と軍国主義は、多くの国の現在の帝国主義に共通する条件ではないだろうか。〉(『二十世紀の怪物 帝国主義』)
幸徳はこのように定義した後、「だから、わたしはこう言いたいのだ」と後を続け、次のように問題提起する。
〈帝国主義の是非と利害を判断しようとすれば、まず「愛国心」と「軍国主義」をよく吟味しなければならない。〉(引用前掲書)
そして幸徳は、まさに鋭い切れ味を持つ刀のような文章でこの問題に斬り込んでいくのである。
(第1341回につづく)
【プロフィール】
井沢元彦(いざわ・もとひこ)/1954年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。TBS報道局記者時代に独自の世界を拓く。1980年に『猿丸幻視行』で江戸川乱歩賞を受賞。『逆説の日本史』シリーズのほか、『天皇になろうとした将軍』など著書多数。
※週刊ポスト2022年5月20日号