「他国の人民の意思に反して、富をかすめ取ろうとする行為は、文明と自由の光に輝いている国の歴史を、じつに甚だしく汚し辱めること」という言葉はいまも生きている。さしずめ、ウクライナに二〇二二年四月現在「切取強盗」を働いているロシア共和国がその対象だろうが、ここで私は歴史家として予言しておこう。それは、この「主犯」であるウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン大統領はろくな死に方をしないだろう、ということだ。
もちろん人間には運不運があるから「運良く」ガンになって早目に死ぬなどということも無いとは言えないが、長く生きようとすれば必ずその生命はおぞましい形で絶たれることになるだろう。どういう死に様をするのか御興味があるなら、第二次世界大戦で独裁者と呼ばれた連中がどういう最期を遂げたか、ご自分でお調べになるのがいいと思う。
では、なぜプーチンがろくな死に方をしないと断言できるのか。それは、ロシアはすでに選挙で大統領を選ぶ民主国家だからである。たしかに国民には「ウクライナこそ悪である」などという偽情報が与えられ、逆にプーチンの意に沿わないジャーナリストは次々に消されている。国際NPOであるジャーナリスト保護委員会(CPJ)のグルノザ・サイド氏は、ロシア国内においては「暗殺は究極の検閲です。殺されたジャーナリストのみならず周りの多くのジャーナリストも沈黙を強いられ、別の意味で殺される」(『週刊文春』2022年3月17日号)という恐るべき見解を語っている。だから、戦争を始めた時点でプーチン大統領の支持率は七十七パーセントを超えており、少なくとも外から見れば絶対の支持を固めたように見えた。
しかし、反体制のジャーナリストの活動が一応可能で野党も存在するロシアでは、そうした偏向報道によって与えられた一種の洗脳状態はいずれ必ず解消される。かつて、「鉄のカーテン」と呼ばれた徹底的な情報鎖国体制があった旧ソビエト連邦時代ならともかく、SNSつまり個人が「報道」できる体制が整備されネット情報も充実しており、昔よりはるかに簡単に情報にアクセスできる現代にこういう洗脳を維持することは、きわめて難しい。
簡単に言えば、いつか嘘はバレる。バレた瞬間に、息子はお国のために名誉の戦死を遂げたと信じていた母親は、自分の息子が自国を守るためでは無く、無理やり「切取強盗」させられ、それに当然の権利として抵抗した相手に殺されたことを知るだろうし、民衆は自分の国が二十一世紀にもなったというのにこんな驚くべき蛮行を為したことを知るだろう。そうなればプーチン体制など淡雪のように消える。ウクライナが完全に軍事的に制圧され「ロシア領」となったとしても結果は同じだ。いずれ必ず「悪」は滅びる。
ちょっと気が早いが、これで日本の北方領土それも二島では無く、四島全部が帰ってくる目途もついた。プーチン体制下のロシアではそれはまったく望めないことであった。なぜなら、ロシア国民は洗脳教育で四島を奪ったのが正しいことだと信じ込まされているからである。だから、五年後か十年後かはわからないが、プーチン体制のロシアが崩壊しロシアが不当に獲得した領土を周辺の国家に返還する流れになったとき、日本は必ずその権利を声高に主張する必要がある。
ただ、それまでにウクライナの無辜の人民が多数犠牲になるのはなんとも忍び難い。ロシアは民主国家である以上、あんな人間を大統領に選んだ責任は国民にある。早くそのことに気がついてもらいたいし、この戦争を止めるにはプーチンを説得するよりロシア国民に真実を知らしめるほうが早道かもしれない。