B面に『ホームにて』が収録された中島みゆきの『わかれうた』
歌詞には「ネオンライト」という単語が登場する。メディア文化評論家の碓井広義さんは「ネオンライトは都会の象徴です」と語る。
「中島さんは、都会で暮らす地方出身者が故郷を思う心を歌っている。都会のネオンライトはまぶしく魅力的だけど、それだけで、ふるさと行きの乗車券=望郷の念を燃やし、消すことはできません。そんな複雑でほろ苦い感情がよく表された歌詞です」
帰りたくとも帰れない故郷への思い
この曲からは、中島の生まれ故郷・北海道の情景が浮かび上がる。医師だった中島の父は、娘がデビューした1975年に脳出血でこの世を去った。その失意のもとで作詞作曲されたのが『ホームにて』だった。
「北海道から上京して歌手としてデビューしたのち、父を失う悲しみのなかで、故郷に帰りたくとも帰れない思いがにじみ出ています。あまり若い頃の体験談を歌わないみゆきさんですが、この曲には深い思いが込められているのでしょう」(音楽関係者)
そんな中島の思いの丈を示す「伝説」が残されている。
「『ホームにて』のレコーディングには坂本龍一さん(70才)が参加しました。できあがった曲を披露するとき、みゆきさんは坂本さんの前で涙を流して滔々と歌い上げ、『プロの歌手が泣きながらレコーディングするなんて』と坂本さんを驚かせたといいます。1978年に出演した歌謡番組『ミュージックフェア』でもみゆきさんは『ホームにて』を歌唱する最中に感極まり、あふれでる涙を止められませんでした」(前出・音楽関係者)
一方で、この曲に込められているのは郷愁だけではない。
「この曲は中島さんの歌う『応援歌』でもあると思う」
と語るのは、音楽評論家の前田祥丈さんだ。
「この曲はふるさとに帰るかどうか、迷う心情を歌っています。人々の心を打つのは『帰る』『帰らない』のどちらを選んだとしても、その選択を歌い手の中島さんが尊重して、肯定しているからじゃないかと感じます。
だから、人生の岐路に立って迷う人に『あなたの選択は間違っていないよ』とエールを送る歌になっていて、自分の選んだ道に自信を持てず葛藤する人のことも、彼女はやさしく慰めます。それゆえに、弱ったときや迷ったときにこの曲を聴くと、支えになる人が多いのでしょう」