犯罪小説の名手である道尾秀介氏(右)と、犯罪ノンフィクションの気鋭、高橋ユキ氏が特別対談

犯罪小説の名手である道尾秀介氏(右)と、犯罪ノンフィクションの高橋ユキ氏が特別対談

高橋:ただ最近は、ノンフィクションをめぐる表現の限界というか、不自由さを感じる機会が多くて、しんどい気持ちになります。事件にはかならず被害者や関係する人々がいるじゃないですか。一言で被害者といっても、事件に直接かかわる人から、その事件の報道を見て心が傷ついたという人まで、被害者を定義する範囲も拡大しようとすればどこまでも広くなります。

 道尾さんは、自分の作品で凶悪な描写や残虐な展開を書くときに、世間が暗黙の了解として求める「モラル」を忖度しますか?

道尾:全くしません。自分が必要だと思えば、どれだけ酷薄でも書きます。僕は小説家として、人の生き死にを徹底的に描くことで物語にしているわけですから。

高橋:私も腹をくくらないと。

現実をバカにしちゃいけない

道尾:逃走犯という存在はなんとなく、かっこよく見られがちですよね。

高橋:たしかに、市橋の公判を熱心に傍聴する市橋ギャルとか、いましたね。権力の象徴でもある警察を手玉にとっているように見えるからでしょうか。

道尾:昔の3億円事件とか、フィクションならスタローンの『ランボー』シリーズも、ずっと人気があります。さっき話題に上った世間のモラルでいえば、ランボーなんて悪人ですよ。どんどん人を殺すし。でも応援してしまうのが不思議です。

高橋:そうやって言い出すと、本当にキリがなくなっちゃいますよね。ヒーロー扱いされている不良漫画の主人公は傷害罪ですよ、とか。

道尾:でも色々言ったって、かっこよく見えちゃう。ヒトの遺伝子を調べると、旧石器時代からほとんど変わっていないそうです。だから、本能かもしれませんね。大昔なら、狩りの上手な人。現代なら、逃走犯。この時代に、スマホを持たずに逃げる。だから、なかなか追跡できない。そうして強い相手を翻弄すると、なんとなくかっこよく感じられてしまう。

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