『報道特集』ではこのUNSCEARの報告書について一切触れていない。触れなかった理由をTBSに聞いたところ、〈今回の放送は、甲状腺がんと被曝の因果関係が裁判の争点になると明確に伝えております。また、国と福島県が甲状腺がんと被爆(原文ママ)の因果関係について現時点で「認められない」という立場であることもあわせて伝えております〉(TBSテレビ社長室広報部)と回答があった。だが、国と福島県が「因果関係がない」と判断した根拠がUNSCEARの報告書であるのだから、そのことについて説明しても良かったのではないか。
その一方で、同番組は低線量被ばくでも甲状腺がんを発症する可能性があると主張していた。根拠として提示したのは、チェルノブイリ事故後のウクライナのデータだ。
1986年〜1997年にウクライナで小児甲状腺がんと診断され摘出手術を受けた577例について、被ばく線量別に分類したグラフ(ウクライナのMykola D.Tronko博士が1999年に発表した論文から引用)を示し、〈51%が100mSv以下の被ばくで、10mSv未満が15%だった〉と説明した。
低線量でも甲状腺がんを発症しているとして、津田敏秀・岡山大学教授の「だいたい5mSvあたりでもがんの増加を見ることができるということは、だいたいの研究者は同意されると思う」との発言を続けて流していた。
これに対し、生物物理学や統計物理学が専門で、大阪大学サイバーメディアセンター教授の菊池誠氏はこう反論する。
「統計的には被ばく量が100mSv以下でがんの増加は確認されないので、福島のような低線量被ばくで甲状腺がんは増えません。津田さん以外に、5mSv以下でがんを発症すると主張している人はほとんどおらず、誰も同意しないでしょう。津田さんが地域ごとの推定被ばく量と甲状腺がんの発生を関連付けた論文についても、UNSCEARは、調査の計画と方法に問題があるとして明確に否定しています」
小児甲状腺がんは「昼寝ウサギ」
では、ウクライナで甲状腺がんの手術を受けた子供の51%が100mSv以下の被ばくだったというデータは、どう解釈すればいいのか。
「もともとあった甲状腺がんを検査でみつけたと考えられ、むしろ過剰診断が起きていた証拠と言えます」(菊池氏)
「過剰診断」とは生涯治療する必要のない病気を検査でみつけ出してしまうことで、必要のない治療につながる。チェルノブイリ事故後のウクライナでも、被ばくとは関係のない自然発生の甲状腺がんも含めて検査で拾い出した結果、低線量でも発症しているように見えているのではないか、という。