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TBS『報道特集』「原発事故と甲状腺がん」の問題点 語られなかった科学的事実【前編】

5月21日放送の「原発事故と甲状腺がん」が批判を浴びたのはなぜか(Tverより)

5月21日放送の「原発事故と甲状腺がん」が批判を浴びたのはなぜか(TVerより)

 約1か月前に放送されたTBS系『報道特集』内の特集「原発事故と甲状腺がん」。放送直後から、内容に「事実誤認がある」などと批判が巻き起こった。番組は、2011年に起きた原発事故の放射線被ばくにより甲状腺がんを患ったとして、男女6人が東京電力を訴えた裁判が始まることを報じたもの。放送内容のどこに問題があったのか。【前後編の前編】

冒頭で語られた「症状」

 特集の冒頭で原告の1人である女性(26歳)が登場し、経緯を語るシーンがある。女性は19歳の時、〈2週間に1回くらい生理が来てしまい、体重が10キロくらい1か月で増えた。肌荒れが起き、ホルモンバランスが崩れた〉とし、後日、福島県が実施する甲状腺検査を受けたら甲状腺乳頭がんと診断されたので、甲状腺の一部の摘出手術を受けたという。

 甲状腺とは、喉仏の下辺りにあり、体の新陳代謝を促進する甲状腺ホルモンを分泌する器官のこと。この女性が発症した「甲状腺乳頭がん」は、がん細胞が集まって乳頭のような形をつくるのでそう呼ばれる。胸の乳腺とは関係がない。

 甲状腺疾患の専門医・高野徹医師(りんくう総合医療センター甲状腺センター長兼大阪大学特任講師)に、甲状腺乳頭がんの症状について訊いた。ちなみに高野医師は2019年から欧州甲状腺学会の小児甲状腺腫瘍診療ガイドラインの作成委員を務めている。

「甲状腺乳頭がんの場合、自分で触ってしこりを感じる以外、ほとんど症状はありません。甲状腺ホルモンの分泌にもまったく影響はない。しこりが大きくなって声を出す神経に当たり、嗄声(声枯れ)が起きたりすることもありますが、稀です。おそらく生理不順など体調不良の原因は他にあると思います」(高野医師)

 たしかに番組は〈検査でしこりがみつかって甲状腺がんと診断された〉と説明しており、甲状腺がんの症状を理解している人なら、女性が訴えた症状は「検査を受けるきっかけ」に過ぎないと判断できる。しかし、甲状腺がんについてよく知らない人が見れば、番組冒頭で女性が訴えた「症状」は、甲状腺がんによるものと勘違いする恐れがあるのではないか。

 なぜ、特集の冒頭で原告女性のこのコメントを流したのか。TBS『報道特集』制作担当者に広報を通じて問い合わせたところ、文書で〈原告の女性が検査を受けるきっかけとなった体調の変化として紹介しております〉(TBSテレビ社長室広報部)と回答があった。

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