これまで甲状腺がんは年間100万人に数人とされていたが、30万人に検査して274人というのはあまりに多すぎる。『報道特集』キャスターの金平茂紀氏が、番組冒頭で〈11年前の福島第一原発事故で、当時子供だった若者が甲状腺がんで苦しんでいます〉と述べているように、番組側は、甲状腺がんの増加は原発事故が原因と考えているようだ。しかし、前出・高野医師はこう言う。
「100万人に数人というのは、なんらかの症状が出て病院で検査を受けて、みつかるケースがそれくらいの比率ということです。30万人もの無症状の人たちを対象に、高精度な超音波検査を実施するというのは前代未聞で、これまでなら気づかなかった甲状腺がんを掘り出してみつけていると考えられます。
広島赤十字・原爆病院小児科の西美和医師が、福島県の甲状腺検査評価部会に提出した資料(2014年3月2日付)によると、震災前から震災後にかけて岡山大、千葉大、慶應女子高の大学生・院生、女子高生約1万5000人に甲状腺検査を実施したところ、おおよそ1000人に1人くらい甲状腺がんがみつかっている。福島の30万人に約300人という比率と同程度です」(高野医師)
原発事故の影響がまったくない地域、時期でも、無症状の人を集めて集団検査をすれば、100万人に数人というレベルをはるかに超える頻度で甲状腺がんがみつかる可能性があるのだ。
番組が触れなかったUNSCEAR報告
原発事故による被ばく量の観点からはどうか。チェルノブイリ後に小児甲状腺がんが多発した主因とされる放射性ヨウ素の放出量は、福島原発事故ではチェルノブイリの約11分の1だった。ベラルーシの避難住民の推定被ばく量(甲状腺等価線量)は平均490mSv(ミリシーベルト)で、約3万人の子供が1000mSvを超える被ばくをしたとされるのに対し、福島の子供の場合、各種調査では最大でも50mSv程度と推定される。
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の2020年報告書によれば、福島の甲状腺の推定被ばく量は、事故直後の1年間で、1歳の幼児で平均2.2〜30mSv、10歳の小児で平均1.6〜22mSvと推計されている。チェルノブイリと比べて桁違いに少ない。放射性ヨウ素の半減期は8日と非常に短いので、被ばくが問題になるのはせいぜい事故直後の数か月程度で、それ以降は影響を無視して構わない。
このUNSCEARの報告書には、甲状腺がんの症例数の大幅な増加は、放射線被ばくの結果ではなく、“超高感度の検診技術が、以前は認識されていなかった甲状腺異常の症例を明らかにした結果”であろうと書かれている。