『17歳の帝国』主演の神尾楓珠
ファンタジーでも作品テーマは深い
NHKのドラマは、朝ドラと大河ドラマで中高年層がメインの視聴者層を確保できているため、その他のドラマ枠では10~30代に向けた作品を手がけているようです。
実際、『17歳の帝国』の主演に23歳の神尾楓珠さん、ヒロインに21歳の山田杏奈さん、『カナカナ』の主演に22歳の眞栄田郷敦さん、ヒロインに23歳の白石聖さん、『正直不動産』のヒロインに23歳の福原遥さんら20代前半の俳優をキャスティングしていることからも、若年層がターゲットの戦略がうかがえます。
とはいえ、これらのファンタジー作品が描こうとしているテーマは、年齢不問の深さがあるものばかり。『空白を満たしなさい』は生死や幸せに生きることの意味、『正直不動産』は「千の言葉のうち真実は三つしかない」と言われるほど嘘の多い不動産業界の現状、『カナカナ』は元ヤンキー青年と幼い少女の成長と絆、『17歳の帝国』は政治や家族の問題を掘り下げるなど、大人の世代にとっても見どころ十分の物語に仕上げています。
最終話の翌週に異例の『感謝祭』を放送した『正直不動産』を筆頭に、NHKのファンタジー作品が一定の支持を得ているだけに、今後は民放各局も「タイムスリップ」「入れ替わり」「生まれ変わり(憑依)」ばかりを放送しているわけにはいかなくなっていくでしょう。「視聴率や配信数を得られるか」というマーケティングベースではなく、思い切ったファンタジー作品が求められそうです。
NHKは、もう1つの柱であるジェンダーやセクシュアルがテーマの作品とともに、今後もファンタジーを手がけていくのではないでしょうか。このまま作品数を増やし、視聴者の支持を獲得していけば「ファンタジー作品ならNHK」というブランディングにつながりますし、そうなれば「朝ドラと大河以外のドラマはなかなか見てもらえない」という課題を解消しているでしょう。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。
「嘘がつけなくなった不動産営業マン」を演じた山下智久
『正直不動産』のヒロイン・福原遥
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