「大衆向け」か「ドラマ好き向け」か
坂元さんは作品が放送されるたびに、ネット上に名ゼリフ集がアップされるなど、「最も熱狂的なファンが多い」と言われる脚本家。特にTBS系の『カルテット』とフジテレビ系『大豆田とわ子と三人の元夫』は、オシャレなのに深さを感じるセリフの数々が熱い支持を集めてきましたが、テーマが良い意味であいまいであることも含め、「大衆向けというより、ドラマ好き向けの作品」という印象がありました。
一方、坂元さんが水田さん、次屋さんと手がけた日本テレビの『Mother』『Woman』は、社会問題を前面に押し出す大衆向けの要素が濃い作品でした。しかし、「そのトリオが復活する『初恋の悪魔』も同じ流れの作品なのか」と言えばむしろ逆で、他局の『カルテット』『大豆田とわ子と三人の元夫』に近い流れを感じさせる作品。その意味では、視聴者がツイッターに熱い声を書き込んでトレンドランキングをにぎわせそうな反面、『Mother』『Woman』のような高視聴率を獲ることは難しいのかもしれません。
最後に坂元×水田×次屋のトリオが手がけたもう1つの『anone』について、1つふれておきたいことがあります。同作は放送終了から約7か月後に、フランス・カンヌで開催された世界最大規模のコンテンツ見本市『MIPCOM2018』で「MIPCOM BUYERS’ AWARD for Japanese Drama」グランプリ受賞。これは各国が自国で放送したい日本のドラマを選出する賞であり、映画化もされた『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)、『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系)などを押さえて選ばれました。
つまり、「視聴率も、視聴者の評判も低迷」と報じられた『anone』も世界各国から評価されているということ。坂元×水田×次屋のトリオが手がける作品にクオリティの問題は考えづらいだけに、安心して楽しめばいいのではないでしょうか。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。