芸能

かたせ梨乃が語る五社英雄監督「アメとムチの使い分けが上手な“父”でした」

五社英雄監督の思い出をかたせ梨乃が振り返る(C)五社プロダクション

五社英雄監督の思い出をかたせ梨乃が振り返る(C)五社プロダクション

 日本の娯楽映画史に燦然たる足跡を残した五社英雄監督が、没後30年を迎える。迫力ある殺陣や濃厚な濡れ場演出への並々ならぬ情念は広くファンを魅きつけた。五社作品へ数多く出演した女優・かたせ梨乃が振り返る。

 * * *
 私は五社さんを「お父さん」と呼んでいました。本当の父親のような包容力のある方でしたし、一から育ててもらった〝女優としての父〟でもあるからです。

 初めてお会いしたのは、『極道の妻たち』(1986年)の時。当時の私はこれといった代表作のない女優でしたから大抜擢でした。監督は丁寧に指導して下さり、立ち居振る舞いすべてを監督にやって頂き、いろいろ教えて下さいました。私の女優デビューは『極妻』だったと思っているぐらい、いろいろ教えて下さったんです。

 でも、次の『吉原炎上』以降の現場では「女優は君だけじゃない」という厳しいお言葉でした。だから必死に自分の頭でお芝居を考えましたよ。そうしたら、撮影終わりに呼び出されて、「お芝居よかったね。どこで勉強したの?」って。もう、飛び上がって喜びましたよ。監督はアメとムチが上手なの。

 五社さんはリアリティを追求する人でしたから、いつだって現場は大変でした。『肉体の門』では、本物の牛をさばこうとして、ギリギリのところでスタッフに止められていたほど(笑)。それに「映画は娯楽でなければならない」とよく口にしていらっしゃいました。だから、訳の分からない映画は作らない。自分の作りたいものと観客が見て楽しめるもののギリギリのバランスを見極めていらしたんだと思います。

 私が現場で感じたのは、監督とスタッフの絆の強さ。『吉原炎上』ラストの町が燃えるシーンで、カットがかかった後、消火用の水が出なかったんです。ほんの数秒でしたが、一歩間違えれば大火事になるところ。でも、監督はじっと椅子に座っているんです。まるでセットと心中してもいいと思っているかのように落ち着いていました。危うく「太秦炎上」になりかけていたのに(笑)。そこまでスタッフを信じ切れるのがすごいし、スタッフ側もみんな監督を尊敬していて、「監督についていくぞ!」という気持ちにあふれていたのを今でも覚えています。

【プロフィール】
かたせ梨乃(かたせ・りの)/1957年、東京都出身。大学在学中にモデルデビュー。テレビ番組の司会などを経て女優に転身。五社作品の代表作に『極道の妻たち』『肉体の門』などがある。

※週刊ポスト2022年8月19・26日号

『吉原炎上』の撮影現場での五社監督とかたせさん。「自分で考えなさい」と言われることが多かったという(C)五社プロダクション

『吉原炎上』の撮影現場での五社監督とかたせさん。「自分で考えなさい」と言われることが多かったという(C)五社プロダクション

関連キーワード

関連記事

トピックス

オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
黒島結菜(事務所HPより)
《いまだ続く朝ドラの影響》黒島結菜、3年ぶりドラマ復帰 苦境に立たされる今、求められる『ちむどんどん』のイメージ払拭と演技の課題 
NEWSポストセブン
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン
公職上の不正行為および別の刑務所へ非合法の薬物を持ち込んだ罪で有罪評決を受けたイザベル・デール被告(23)(Facebookより)
「私だけを欲しがってるの知ってる」「ammaazzzeeeingggggg」英・囚人2名と“コッソリ関係”した美人刑務官(23)が有罪、監獄で繰り広げられた“愛憎劇”【全英がザワついた事件に決着】
NEWSポストセブン
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
一般女性との不倫が報じられた中村芝翫
《芝翫と愛人の半同棲にモヤモヤ》中村橋之助、婚約発表のウラで周囲に相談していた「父の不倫状況」…関係者が明かした「現在」とは
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
NEWSポストセブン