張り切っていた日本語の勉強は、教室が週1回2時間しか通えない上、高田さんの都合が合わないと参加できなかった。普段のコミュニケーションは、政府支給の音声翻訳機を使っていたが、それでは意思の疎通にも限界がある。

 中でも困ったのは、インターネットが通じない環境だ。整備するよう高田さんに頼んだが、対応が鈍かった。母国に残した両親のことが気がかりだったため、自己負担でスマホを設定してやり取りした。

「病院に行きたいと伝えた時も、叶わなかった。免許も車もないので自分から動けないのです」

 単身でやって来た異国での田舎暮らしに、戸惑いや孤独を感じていた。いつかは慣れるだろうと思いきや、そこには意外な展開が待っていた。

後編につづく

【プロフィール】
水谷竹秀(みずたに・たけひで)/1975年、三重県生まれ。ノンフィクションライター。上智大学外国語学部卒業。新聞記者やカメラマンを経てフリーに。2004~2017年にフィリピンを拠点に活動し、現在は東京。2011年『日本を捨てた男たち』で開高健ノンフィクション賞を受賞。ほかに『だから、居場所が欲しかった。』『脱出老人』など。

※週刊ポスト2022年10月7・14号

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