国会議事堂前で行われた安倍晋三元首相の国葬に抗議する集会。9月27日午後(時事通信フォト)

国会議事堂前で行われた安倍晋三元首相の国葬に抗議する集会。9月27日午後(時事通信フォト)

 裏返せば、安倍氏のその政治手法には敵が必要だったともいえる。敵がいるから味方が結束し、敵を利用し、それを叩くことで強さや権力をアピールした。政権を安定させ、政策などを次々と実行していったが、それと同じくらいデモも起きた。安倍政権下では同じような場面をメディアを通して何度も目にしたためか、国葬の日と当時の光景が重なって見えた。

 反対派の人たちを遠ざけ、その声を聞かずとも、賛成派の人たちから支持され強力にサポートされてきた手法は、安倍一強と呼ばれた安倍氏だからできたことだろう。昔、タイトルは忘れてしまったのだが、リーダーシップに関するある本を読んだ時、”リーダーシップは民主主義ではない”と書かれていたことに衝撃を覚えたが、それもリーダーシップの1つの形ではある。ただしそこにはカリスマ的な存在感や行動力、実行力が必要になる。

 国葬にあたり、岸田首相は時間をかけて国会で審議することもなく、反対する国民の声を”真摯に受けとめ、丁寧に説明する”と述べただけで、首相の得意としたはずの聞く力を使わなかった。安倍氏の政治手法と似たところがあった。だが反対派をバネに支持を広げることができず、強力なリーダーシップを発揮することなく、国論を分断させただけで終わってしまった。結果、弔意を示したかった国民にとっては、残念な光景が広がった。対決型の政治手法を使いこなすのは簡単ではない。

 安倍氏なら、あのデモを見てなんと言っただろう。聞いてみたかったと思う。

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