『イカ天』で一気にスターダムへ
──本の中では、『イカ天』出演にまつわるエピソードについても詳しく書かれていますが、もともとはスタッフが応募したのですよね。
「『イカ天』に出るか、出ないかはメンバー内でもいろいろ話し合いをしたんです。僕らだけだったら優柔不断で応募しなかったと思いますね。でもスタッフが番組にテープを送ったら、すぐに返事が来たんです。どうやら番組制作の人たちがたまのことを知っていたらしくて、“もう来週来てくれ”みたいな感じで決まりましたね」
──『イカ天』はチャレンジャーになって、さらにキングに選ばれないと、次回は出演ができないというルールでしたが、一曲しか演奏ができないかもしれない中で、なぜ演奏曲を『さよなら人類』ではなく『らんちう』を選ばれたのですか?
「たまの曲には『さよなら人類』みたいなポップな曲の方がむしろ少なくて、『らんちう』みたいな暗い曲が多かった。『らんちう』の方が、ほかの曲よりアングラっぽい。たまの根っこに近いって思ったんです。
『イカ天』の出演も、勝ち抜こうというつもりはなかったので、一番コアなものを出して、“これが好きな人がいたら、地方のライブでも動員が増えるかな”程度にしか思っていなかったんです」
──メンバー内でも、『らんちう』で行こうとすんなり決まったのですか?
「あの曲は知久がメインボーカルで、途中には柳原(柳原幼一郎・たまのボーカル・オルガン)のセリフがあって、僕も動きが派手だし、それぞれの見せ場もあるな……っていうのも大きかったですね」
──審査員だったオペラ歌手の中島啓江さんが「能ある鷹は爪を隠す」と最初の段階から褒めていましたよね。審査員の言葉は覚えていますか。
「なんとなく覚えていますね。最近はYouTubeに動画もアップされているし、つい見ちゃう(笑)。あれはね、タイミングが良かったんですよ。ちょうど家庭用ビデオデッキが普及し始めた時期だったんです。だから今でも知られているのだと思いますね」
──グランドイカ天キングをかけた勝負の5週目(メジャーデビューが約束される)ですが、演奏をしない曲を選ばれましたよね。
「5週目はもう勝っても負けても出るのが最後なので、それだったらいっそ盛大に負けてやろうと思っていたんです。だってバンド合戦なのに、楽器がギター1本しかない曲で出演したのに勝っちゃったんですよ。審査員も視聴者も最後にぎゃふんと言わせて、最後の最後にこれか……というオチのつもりでやったんですけどね。
特別審査員だった大島渚監督が『こういうのが本当に凄いんだよ』ってべた褒めしちゃったから、他の人も下手なことは言えないぞって感じだったんじゃないかな(笑)」
──『イカ天』のなかでも、たまと挑戦者のマルコシアス・バンプ(1990年代に活動した実力派ロックバンド)との勝負は名場面だったという視聴者も多いと思います。
「やっぱりディレクターが5週目のそのグラウンドキングになるかどうかというときには、強い相手を見つけようって言って、チャレンジャーの最有力候補だったマルコシアス・バンプをわざと出したって言っていましたね。ジャンルが違う僕でも名前聞いたことあるぐらい有名なバンドで、いつメジャーデビューしてもおかしくないって言われていた。だからたまが勝つとは思っていなかったですね」