1985年10月1日、ニューモデルひかり号をカメラに収めようと押しかけた鉄道ファン(時事通信フォト)

1985年10月1日、ニューモデルひかり号をカメラに収めようと押しかけた鉄道ファン(時事通信フォト)

このままだと、本当に撮影できなくなる

〈でんしゃがだいすきなおともだちへ〉

〈おそとを はしる でんしゃは、
たくさんのひとを のせて はしっているんだ。
おもちゃの でんしゃじゃ ないんだよ。〉

※中略

〈おもちゃじゃ なくって こうきょうこうつうきかん。
よくおぼえていてね!!〉

 上記はJR西日本がとある踏切に掲示した注意書きである。一部の「撮り鉄」からネット上を中心に批判されたようだが、筆者は児童の鉄道ファンも前提とした、まったく正しい掲示だと思う。中略箇所は線路に入るな、走行の邪魔をするな、危険箇所や私有地に勝手に入るな、つまるところ「犯罪行為をするな」という当たり前のことを言っている。長く鉄道写真を趣味にしてきたカメラマン氏が続ける。

「先ほど職員が優しくなった、鉄道会社が甘くなったと言いましたが、あまりの事案の多さに厳し目になってきています。許可なしの三脚や脚立が全面禁止になるかもしれません。同じ愛好家としての苦言ですが、しょせん私たち『撮り鉄』はお仕事中の鉄道事業者や一般利用客の隙間で細々と撮影させていただく立場なんです。分をわきまえて欲しいと思うのですが、正直、本当に意思疎通も難しいレベルの『撮り鉄』もいますから、分をわきまえた愛好家の界隈で自浄していくしかないですね。このままだと、本当に撮影できなくなりますよ」

 情熱は趣味に欠かせないエッセンスだが、鉄道はインフラストラクチャーであり、大勢の人の命はもちろん、国家の血流ともいえる物資を運んでいる。鉄道各社が苦慮するのも、鉄道職員が厳しく注意するのもこの国を、人を、なにより「撮り鉄」のためを思って言っている。誰も「撮り鉄」を敵視したいわけじゃない。明らかな犯罪行為や迷惑行為を注意しているだけなのだ。

 JR西日本の言う通り、鉄道輸送は遊びじゃないし、鉄道車両は玩具じゃない。「一部が全体」と扱われて悪評ばかりの「撮り鉄」だが、鉄道撮影は芸術活動でもあったし、いまも心あるカメラマンにとってはそうなのだろう。実際、同好者を注意したり、諫めたりする方々もいる。鉄道事業者が本気になりかけているいま、まずそうした「界隈」での自浄作用が必要ではないだろうか。でないと本当に、厳しい諸外国の一部のように撮影そのものが禁止されてしまうかもしれない。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題や生命倫理の他、日本のロジスティクスおよびモビリティ分野に関するルポルタージュも手掛ける。 

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