蔡英文氏の次の総統が「台湾侵攻」のカギを握る(写真/EPA=時事)
筆者が中国の当局者や研究者と意見交換をしていて感じるのは、米国の大統領選挙前後の政権移行期を「権力の空白」とみる傾向があることだ。
実際、再集計問題でもつれた2000年の大統領選では、その4か月後、南シナ海上空を飛んでいた米軍偵察機に中国軍戦闘機が衝突して墜落する事件が起きている。2つの重要な選挙が重なる2024年、習が決起する衝動に駆られる可能性がある。
台湾側も危機感を募らせている。
「中国が2025年には全面的に台湾に侵攻できる能力を持つ。私は軍に入って40年以上経つが、最も厳しい」
台湾の邱国正・国防部長(国防相)は10月6日に開かれた立法院(国会)の国防予算審議で、台湾海峡の厳しい現実について、こう語った。
これまでも、兵力や兵器の数では、中国軍が台湾軍よりも勝っていた。ただ、米国の武器支援を受けた台湾側は、質では優位に立っていたが、急速に近代化を進める中国軍が質量共に台湾軍をしのぐようになった。
では、中国軍は具体的にどのように台湾併合に動くのか。
習自身が「中国人は中国人を攻撃しない」と言及しているように、台湾への全面的な軍事侵攻は避けたいのが本音だろう。台湾には、全世界の92%の最先端半導体の製造が集積するほか、中国にとって重要なサプライチェーン(部品供給網)があるからだ。さらに、軍事侵攻に踏み切れば、台湾の軍や市民による抵抗も予想される。米国の介入も避けられないだろう。
ロシア・ウクライナ戦争では、習の盟友、ロシア大統領のウラジーミル・プーチンが、米国の全面的な軍事支援を受けたウクライナ軍による予想以上の抵抗に苦しめられているのを目の当たりにしているはずだ。
日本を狙う
それでは台湾有事の際に中国はどこを狙うのか。それは日本だ、と筆者は断言できる。
中国には「将を射んと欲すればまず馬を射よ」という故事がある。「目標を直接攻撃するのではなく、まず周囲のものに打撃を与えたり味方につけるべき」という意味だ。
中国にとって、「将」は米国であり、「馬」は日本なのだ。米国が台湾有事の際、米領グアム以外に使用できる主な拠点は、在日米軍基地だ。特に沖縄のほか、岩国、佐世保が重要な基地となる。
防衛白書によると、中国軍は日本をカバーする射程1000~5500キロの中距離弾道ミサイル(準中距離含む)を278基持っている。一方の米軍や自衛隊は保有していない。有事の際に在日米軍基地をミサイルでたたけば、米軍の出動が難しくなる。