このような武器を使わなくても、「馬」を殺すことはできる。
それが、影響力工作だ。有事の際にプロパガンダ(宣伝活動)や偽情報を拡散して他国の世論を操作するという手法だ。ロシア・ウクライナ戦争の際にも、SNS上でロシア寄りの言説やウクライナ側を貶める偽情報が広まった。
中国の情報機関などが、日本のSNS上で「中国支持」や「台湾批判」の書き込みを展開したり、「戦争反対」のデモを扇動することが予想される。中国で事業展開をしている日本企業の資産を接収したり、在留邦人を拘束したりして、揺さぶりをかけることも考えられる。
そうなると、日本国内で「外交で解決すべき」「台湾を支援するな」といった世論が広がり、一気に厭戦ムードが高まる可能性もある。国内世論が動揺すれば、日本政府が米軍に支援を頼むことが難しくなる局面もありうるだろう。
こうした中国側の攻勢に対して日本が手を打たないまま、台湾有事が起きれば、「戦わずして負ける」事態になりかねないのだ。
【プロフィール】
峯村健司(みねむら・けんじ)/1974年長野県生まれ。ジャーナリスト。朝日新聞入社、北京・ワシントン特派員を計9年間務める。「LINE個人情報管理問題のスクープ」で2021年度新聞協会賞受賞。中国軍の空母建造計画のスクープで「ボーン・上田記念国際記者賞」(2010年度)受賞。2022年4月に退社後は青山学院大学客員教授、北海道大学公共政策学研究センター上席研究員などに就任、今年10月からキヤノングローバル戦略研究所主任研究員。近著に『ウクライナ戦争と米中対立 帝国主義に逆襲される世界』(幻冬舎新書)。
※週刊ポスト2022年10月28日号