国際情報

【フォトレポート】プーチンの「臨検」に怯える北海道・根室の漁師たち──北方領土海域「棹前コンブ漁」の緊張

納沙布岬からわずか3・7キロの位置にある貝殻島。この海域で採れる「棹前コンブ」は漁師たちの最大の収入源だ

納沙布岬からわずか3.7キロに建つ貝殻島灯台。「棹前コンブ」は漁師たちの最大の収入源だ

 ウクライナに侵攻したロシアのプーチン政権は、国際社会の批判を浴びながらもウクライナ東南部の併合を宣言したが、そうした「ロシア(ソ連)による一方的な侵略」が第二次世界大戦末期に行なわれたのが北方領土だ。ウクライナ戦争が長期化の様相を見せるなか、日露国境でも緊張が続いている。30年以上にわたって「日本の国境」をテーマに取材・撮影を行なっている報道写真家・山本皓一氏がレポートする。

 * * *

 日本人の食文化を支える食材に「コンブ」がある。天然コンブの約96%は北海道産(2019年)であり、なかでも根室市の歯舞漁港は道内有数の漁獲量(採取量)を誇る。コンブの漁期は毎年7月~9月だが、例外がある。「棹前(さおまえ)コンブ」と呼ばれる早採りのコンブだ。解禁のことを「棹入れ」といい、それより前に採取することが名前の由来。柔らかい食感を楽しめる「食べるコンブ」の最高級品で、例年、6月上旬が漁の解禁日となってきた。

 根室の棹前コンブ漁は、ロシアが実効支配する歯舞群島の貝殻島付近が漁場となるため、毎年、事前の操業条件交渉により日本側が入漁料をロシアに払う形で漁が成立していた。

 ところが今年はウクライナ戦争の勃発を受け、日本がロシアへの経済制裁に同調したことでロシア側は態度を硬化させた。オンラインによる交渉は何とか妥結したものの、例年より約3週間遅れての操業スタートとなった。

 6月28日の午前5時30分。本土最東端の納沙布岬沖に、赤い塗装が目印のコンブ漁船が続々と集まってきた。漁船団の向こうにはロシアが実効支配する貝殻島の灯台が肉眼でもはっきりと確認できる。戦前の1937年に当時の日本政府が建設した灯台は、納沙布岬からわずか3.7キロの距離にある。

 午前6時、操業開始を知らせるサイレンが鳴り響く。根室の3漁協から集まった220隻のコンブ漁船が、灯台付近を目指して白波を立てて一斉に発進した。より良質なコンブを採るには、いかに早く目的地に到達するかが勝負の分かれ目だという。この限られた期間のうちに高値で売れるコンブを採れるかどうかは、漁師たちにとって死活問題でもある。

 水深の浅い海に着生しているコンブを専用の鈎つき棒に巻き付け、船の上に引き揚げる。そうした作業を、至近距離から見張っているのがロシア国境警備局の船だ。納沙布岬にほど近い日本側からは、海上保安庁の巡視船も漁の様子を見守っている。操業違反などのトラブルが発生した場合に、すぐに現場に急行するためだ。

 実は、この漁の模様を取材・撮影するために、筆者はコンブ漁船への同乗を関係者に打診していた。ところがベテラン漁師は「とんでもない」といった調子で首を横に振った。

「今年ばっかりはわやだな(どうしようもない)。漁師はみな、顔写真まで向こう(ロシア側)に出してるべ。他人が船に乗っていることがバレたら、どうなるかわかったもんじゃない」

関連キーワード

関連記事

トピックス

鮮やかなロイヤルブルーのワンピースで登場された佳子さま(写真/共同通信社)
佳子さま、国スポ閉会式での「クッキリ服」 皇室のドレスコードでは、どう位置づけられるのか? 皇室解説者は「ご自身がお考えになって選ばれたと思います」と分析
週刊ポスト
松田烈被告
「テレビ通話をつなげて…」性的暴行を“実行役”に指示した松田烈被告(27)、元交際相手への卑劣すぎる一連の犯行内容「下水の点検を装って侵入」【初公判】
NEWSポストセブン
Aさんの左手に彫られたタトゥー。
《10歳女児の身体中に刺青が…》「14歳の女子中学生に彫られた」ある児童養護施設で起きた“子供同士のトラブル” 職員は気づかず2ヶ月放置か
NEWSポストセブン
会談に臨む自民党の高市早苗総裁(時事通信フォト)
《高市早苗総裁と参政党の接近》自民党が重視すべきは本当に「岩盤保守層」か? 亡くなった“神奈川のドン”の憂い
NEWSポストセブン
知床半島でヒグマが大量出没(時事通信フォト)
《現地ルポ》知床半島でヒグマを駆除するレンジャーたちが見た「壮絶現場」 市街地各所に大量出没、1年に185頭を処分…「人間の世界がクマに制圧されかけている」
週刊ポスト
連覇を狙う大の里に黄信号か(時事通信フォト)
《大相撲ロンドン公演で大の里がピンチ?》ロンドン巡業の翌場所に東西横綱や若貴&曙が散々な成績になった“34年前の悪夢”「人気力士の疲労は相当なもの」との指摘も
週刊ポスト
お騒がせインフルエンサーのボニー・ブルー(インスタグラムより)
「バスの車体が不自然に揺れ続ける」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサー(26)が乱倫バスツアーにかけた巨額の費用「価値は十分あった」
NEWSポストセブン
イベント出演辞退を連発している米倉涼子。
《長引く捜査》「ネットドラマでさえ扱いに困る」“マトリガサ入れ報道”米倉涼子はこの先どうなる? 元東京地検公安部長が指摘する「宙ぶらりんがずっと続く可能性」
アドヴァ・ラヴィ容疑者(Instagramより)
「性的被害を告発するとの脅しも…」アメリカ美女モデル(27)がマッチングアプリで高齢男性に“ロマンス”装い窃盗、高級住宅街で10件超の被害【LA保安局が異例の投稿】
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(時事通信フォト・目撃者提供)
《ラブホ通い詰め問題でも続投》キリッとした目元と蠱惑的な口元…卒アル写真で見えた小川晶市長の“平成の女子高生”時代、同級生が明かす「市長のルーツ」も
NEWSポストセブン
韓国の人気女性ライバー(24)が50代男性のファンから殺害される事件が起きた(Instagramより)
「車に強引に引きずり込んで…」「遺体には多数のアザと首を絞められた痕」韓国・人気女性ライバー(24)殺害、50代男性“VIPファン”による配信30分後の凶行
NEWSポストセブン
本拠地で大活躍を見せた大谷翔平と、妻の真美子さん
《真美子さんと娘が待つスイートルームに直行》大谷翔平が試合後に見せた満面の笑み、アップ中も「スタンドに笑顔で手を振って…」本拠地で見られる“家族の絆”
NEWSポストセブン