売り切れたトイレットペーパーの棚。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、スーパーやドラッグストアでトイレットペーパーやティッシュペーパーが品切れになる店舗が相次いだ。2020年3月(NurPhoto via AFP)

売り切れたトイレットペーパーの棚。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、スーパーやドラッグストアでトイレットペーパーやティッシュペーパーが品切れになる店舗が相次いだ。2020年3月(NurPhoto via AFP)

「テレビや新聞が嘘を言っている、という言説はネットを中心に20年も前から言われてきたことです。最近では、ネットはオールドメディアよりも真偽不明の情報ばかりで、情報収集にはある程度の知識と技術が必要だという冷静な分析も広がってきました。でも、そういった認識にまだたどり着けていない人もいる。両親は遅れてきた”自称情報強者”に思えてなりません」(牧瀬さん)

 最近は、SNS上で盛り上がっているテーマについて当事者、たとえばひろゆき氏が出演してテレビやネット番組上で議論する様子を見せる、というSNS論争のエンタメ化が増えている。そこで放送または配信されているものが内容のある議論であればまだしも、罵声の応酬、冷笑に終始する場合も少なくなく、単なる「大騒ぎ」にしか見えない事もある。もし客観的な場所でそれを見聞きしたら、自分とは異なる世界の話だと感じやすいのだろうが、多くが個人でじっくり画面を見てしまう配信は、良くも悪くも身近なもの、自分に近いものだと思い込みやすいという面もあろう。その距離の近さから、たとえくだらない内容でも感化され、自身に関係の無い、もしくは非常に遠い話題であっても、身近に感じてしまう人が増えたのではないか、牧瀬さんはそう指摘する。

 つい最近で言えば、安倍元首相が銃撃された直後も「安倍さんが亡くなり喪失感がすごい」「何もする気が起きない」といった声がSNS上に散見された。しかし、驚いたり落胆することはあっても、安倍氏はあくまで一政治家であって家族や親戚などではなく、直接の面識すらない人がほとんどだ。感受性が強く、地球の裏側の悲惨な出来事の様子を画面でみただけでも精神的なダメージを受けるという少ない例はあるかもしれないが、普段、そんな繊細さの片鱗もなかった自分の家族が、急に特定のことにだけ感情的になるのは、その発露の受け止めを要求される牧瀬さんのような立場からはとても不自然に見えるはずだ。だいたい、冷淡な言い方をすれば、知らなかったらそれで済む問題でもあるかもしれず、その人自身の生活にはほとんど何も影響が出ることはないのだ。

 無論そういった問題について、全く関心を持たないのが良い、というわけではない。だが、必要以上に自分に近い事象だと捉えてしまい、思考のバランスが取れなくなったり、考え方が異なる他者に攻撃的になってしまったりするのは奇妙なことだ。情報が身近になり、地球の裏側で起きていることですら、無料で簡単に、しかもリアルタイムで知ることができる時代の弊害なのだろうか。

トイレットペーパー買いだめのきっかけ

 情報過多でパニックになったり、頭の中で処理できず結果が偏ってしまうことは誰にでもある。そういうことを皆が承知していれば、混乱に人を巻き込んだり、巻き込まれたりということも減るのではないはずだ。誰でもSNSを操れるようになってからというもの、不用意な内容でも一時的な「ノリ」任せで、軽はずみに情報を発信したことによるトラブルは、枚挙にいとまがないほどである。

 たとえば、新型コロナウイルスの感染拡大が日本で始まった当初、トイレットペーパーの買いだめに皆が走ったきっかけは、匿名の一般人による根拠がないツイートがきっかけだった。そのツイートをきっかけに、リアルでも根拠がない噂話を周囲に拡散した人が相次いだ結果、あらゆる店からトイレットペーパーが消えてしまった。1970年代の「オイルショック」時にもトイレットペーパーなどが店頭から消える騒動となったが、発端と拡散は主にリアルのクチコミでありそれが今、ネットに置き換わってしまっている。左右を標榜する知識人や文化人が発信する情報でさえ、よく読み込んでいくとソース(出展、根拠)が不確かだったり、ソースそのものがいわゆる「まとめサイト」だったりすることも、毎日のように、いや毎時間のように頻発している。

 自分のような一市民が何かをちょっとつぶやいたり、写真をアップすることに影響力など何もないと考えるのは危険だ。ネットでの発信だけでなく、もちろんリアルでも誰かに何等かの影響を与える事の重大さを今一度考えるべきだろう。残念ながら現実は、自重しよう、落ち着いて話し合おうという意見は、お祭り騒ぎのような「議論」にかき消されているが、それでもやはり諦めずに、一息入れて落ち着くことを心がけたい。

関連キーワード

関連記事

トピックス

上原多香子の近影が友人らのSNSで投稿されていた(写真は本人のSNSより)
《茶髪で缶ビールを片手に》42歳となった上原多香子、沖縄移住から3年“活動休止状態”の現在「事務所のHPから個人のプロフィールは消えて…」
NEWSポストセブン
ラオス語を学習される愛子さま(2025年11月10日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまご愛用の「レトロ可愛い」文房具が爆売れ》お誕生日で“やわらかピンク”ペンをお持ちに…「売り切れで買えない!」にメーカーが回答「出荷数は通常月の約10倍」
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《10代少女らが被害に遭った“悪魔の館”写真公開》トランプ政権を悩ませる「エプスタイン事件」という亡霊と“黒い手帳”
NEWSポストセブン
「性的欲求を抑えられなかった」などと供述している団体職員・林信彦容疑者(53)
《保育園で女児に性的暴行疑い》〈(園児から)電話番号付きのチョコレートをもらった〉林信彦容疑者(53)が過去にしていた”ある発言”
NEWSポストセブン
『見えない死神』を上梓した東えりかさん(撮影:野崎慧嗣)
〈あなたの夫は、余命数週間〉原発不明がんで夫を亡くした書評家・東えりかさんが直面した「原因がわからない病」との闘い
NEWSポストセブン
テレ朝本社(共同通信社)
《テレビ朝日本社から転落》規制線とブルーシートで覆われた現場…テレ朝社員は「屋上には天気予報コーナーのスタッフらがいた時間帯だった」
NEWSポストセブン
62歳の誕生日を迎えられた皇后雅子さま(2025年12月3日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまのラオスご訪問に「感謝いたします」》皇后雅子さま、62歳に ”お気に入りカラー”ライトブルーのセットアップで天皇陛下とリンクコーデ
NEWSポストセブン
竹内結子さんと中村獅童
《竹内結子さんとの愛息が20歳に…》再婚の中村獅童が家族揃ってテレビに出演、明かしていた揺れる胸中 “子どもたちにゆくゆくは説明したい”との思い
NEWSポストセブン
日本初の女性総理である高市早苗首相(AFP=時事)
《初出馬では“ミニスカ禁止”》高市早苗首相、「女を武器にしている」「体を売っても選挙に出たいか」批判を受けてもこだわった“自分流の華やかファッション”
NEWSポストセブン
「一般企業のスカウトマン」もトライアウトを受ける選手たちに熱視線
《ソニー生命、プルデンシャル生命も》プロ野球トライアウト会場に駆けつけた「一般企業のスカウトマン」 “戦力外選手”に声をかける理由
週刊ポスト
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン