巨大掲示板「2ちゃんねる」管理人だった当時の「ひろゆき」こと西村博之氏。2007年(時事通信フォト)

巨大掲示板「2ちゃんねる」管理人だった当時の「ひろゆき」こと西村博之氏。2007年(時事通信フォト)

とにかくネット上の言説を真に受けるように

 片桐さんが、両親の暮らす実家を離れて20年以上。後期高齢者の両親が退屈しないようにとタブレットをプレゼントしたのはコロナ禍直後の一昨年のこと。テレビや新聞以外のメディアを知らなかった両親は、最初こそ戸惑っていたが、今では自身のSNSアカウントを開設したり、フリマアプリで物品の売買まで行っているという。しかし、それ以上に両親が没頭したのが、SNSを通じて社会情勢を知ること、そこで著名人が発信する情報を得ることだ。

「テレビや新聞を通さず、生の声、生の状況がわかるんだと、私があまりに雑に説明したのがいけなかったのか。とにかくネット上の言説を真に受けるようになり、辺野古の問題でも反ひろゆきさん勢力の意見をまるで自分が見聞きしてきたようにして、ひろゆきさんを罵倒するんです。母はとても優しかったのですが、そんな母に嫌気がさしたのか、父も母と話すのを嫌がり”どうにかしてくれよ”と電話がかかってくるほどです」(片桐さん)

 ひろゆき氏と辺野古基地反対派による運動をめぐる騒動は、かなり大きな意味で言えば、国防や私たちの生命に関わる問題であり、自分事として捉えることはごく自然だ。ただ、騒ぎになればなるほど当初の問題点は置き去りになり、当事者以外による騒ぎの方が大きくなる半ば「祭り状態」になり、それぞれの論陣に与すると自称するユーザーたちがネット上で罵倒の応酬を繰り広げているのが実情だ。それを見て、面白半分で参加したり、ただ感化されすぎて当事者以上に興奮してしまっているユーザーは少なくない。だからこそ、片桐さんは「その問題、お母さんに関係あるの?」と率直に聞いたのだが、母は余計に怒ってしまい、毎日のように取り合っていた連絡も疎遠になりつつあるという。

 都内在住の私大職員・牧瀬祐子さん(仮名・50代)も、一緒に暮らす高齢の両親がネットのせいで「分断されてしまったかも」と感じている一人。特に、ロシアのウクライナ侵攻が始まってからは、父親はロシアを擁護し、母親はウクライナを擁護するようになり、何気ない食事の時間でも、意見の相違から口論に発展することも少なくなくなったのだと話す。

「父も母も、年の割にはかなりネットを使いこなしている方だと思いますが、フラットに情報を取ろうとせず、好きなジャーナリストや作家、好みの言説ばかり、SNS上の情報をつまみ食いしているような感じ。長年とっていた新聞の購読もやめ、テレビが言っていることは全部ウソという割には、ネット上のよくわからないサイトに書いてあった事を、さも自分が勉強してきたことのように話してくる」(牧瀬さん)

中国が台湾に攻め込んでくるのか否かで対立

 ウクライナ侵攻後も、主にSNSを駆使して情報を集め続けている両親だが、最近では中国が台湾に攻め込んでくるのか否かで意見が対立。その末に、何十年も一緒だった寝室から母親が「耐えられない」と出て行き、今ではリビングの床に布団を敷いて寝る始末。父親も父親で「あいつがあんなに馬鹿だとは思わなかった」と近所や親族にまで言い回っているというから、牧瀬さんはお手上げ状態だいとう。政治的思想の相違だけでなく、年を重ねるにつれて、両親の間にさまざまな意見の対立が生じていたことも事実だというが、無防御な状態でネット世界と相対したことで、亀裂の入るスピードが加速したのではないかとさえ感じているのだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

どんな役柄でも見事に演じきることで定評がある芳根京子(2020年、映画『記憶屋』のイベント)
《ヘソ出し白Tで颯爽と》女優・芳根京子、乃木坂46のライブをお忍び鑑賞 ファンを虜にした「ライブ中の一幕」
NEWSポストセブン
相川七瀬と次男の凛生君
《芸能界めざす息子への思い》「努力しないなら応援しない」離婚告白の相川七瀬がジュノンボーイ挑戦の次男に明かした「仕事がなかった」冬の時代
NEWSポストセブン
俳優の松田翔太、妻でモデルの秋元梢(右/時事通信フォト)
《松田龍平、翔太兄弟夫婦がタイでバカンス目撃撮》秋元梢が甥っ子を優しく見守り…ファミリーが交流した「初のフォーショット」
NEWSポストセブン
世界が驚嘆した大番狂わせ(写真/AFLO)
ラグビー日本代表「ブライトンの奇跡」から10年 名将エディー・ジョーンズが語る世界を驚かせた偉業と現状「リーチマイケルたちが取り戻した“日本の誇り”を引き継いでいく」
週刊ポスト
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《即完売》佳子さま、着用した2750円イヤリングのメーカーが当日の「トータルコーディネート」に感激
NEWSポストセブン
国連大学50周年記念式典に出席された天皇皇后両陛下(2025年9月18日、撮影/JMPA)
《国連大学50周年記念式典》皇后雅子さまが見せられたマスタードイエローの“サステナブルファッション” 沖縄ご訪問や園遊会でお召しの一着をお選びに 
NEWSポストセブン
豪雨被害のため、M-1出場を断念した森智広市長 (左/時事通信フォト、右/読者提供)
《森智広市長 M-1出場断念の舞台裏》「商店街の道の下から水がゴボゴボと…」三重・四日市を襲った記録的豪雨で地下駐車場が水没、高級車ふくむ274台が被害
NEWSポストセブン
「決意のSNS投稿」をした滝川クリステル(時事通信フォト)
滝川クリステル「決意のSNS投稿」に見る“ファーストレディ”への準備 小泉進次郎氏の「誹謗中傷について規制を強化する考え」を後押しする覚悟か
週刊ポスト
アニメではカバオくんなど複数のキャラクターの声を担当する山寺宏一(写真提供/NHK)
【『あんぱん』最終回へ】「声優生活40年のご褒美」山寺宏一が“やなせ先生の恩師役”を演じて感じた、ジャムおじさんとして「新しい顔だよ」と言える喜び
週刊ポスト
林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
《部屋はエアコンなしで扇風機が5台》「仏壇のろうそくに火をつけようとして燃え広がった」林家ぺー&パー子夫妻が火災が起きた自宅で“質素な暮らし”
NEWSポストセブン
1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン
“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト