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【書評】ハリウッド映画論としても貴重な巨匠オーソン・ウェルズの“放談”

『オーソンとランチを一緒に』著/オーソン・ウェルズ、ヘンリー・ジャグロム、訳・赤塚成人

『オーソンとランチを一緒に』著/オーソン・ウェルズ、ヘンリー・ジャグロム、訳・赤塚成人

【書評】『オーソンとランチを一緒に』/オーソン・ウェルズ、ヘンリー・ジャグロム・著 赤塚成人・訳/四月社/6380円

【評者】川本三郎(評論家)

「ハリウッドの一匹狼の巨人」オーソン・ウェルズが晩年、息子のように若い映画監督ヘンリー・ジャグロムとランチをしながらしたお喋りをまとめている。滅法面白い。食事を楽しみながらのお喋りだからざっくばらん。

 まず映画人のゴシップが愉快そうに語られる。あの大女優キャサリン・ヘプバーンは「ひっきりなしに、ハリウッド中の男と寝まくってた」。えっ、ほんと!? 話半分にしても驚いてしまう。ついでにケイティの良きパートナーの名優スペンサー・トレイシーの演技を楽しそうにこきおろす。

 スターになる前のマリリン・モンローは「愛人」だったと語るのにも驚く。ハリウッドの大製作者たちはもうボロクソ。天才、神童と謳われたのに彼らがウェルズを大事にしなかったからだろう。

「市民ケーン」は、モデルとされたマスコミの帝王ハーストの妨害もあって興行成績はよくなかった。そのためあれだけの傑作を作りながらその後、なかなか思うように映画を作れなかった。最後の長編「フェイク」は興行主からも批評家からも見放され自費で公開せざるを得なかった。

 決して恵まれた映画人生ではなかった。名優なのになぜこんな愚作にと呆れるような映画に多く出演したが、それも映画が作りたくて製作費を稼ぐためだったというのが泣かせる。

 大評判になった「第三の男」のこと、一時結婚していたリタ・ヘイワースのこと、ジョン・フォードやヒッチコックのこと、あるいは赤狩りのこと。放談のように見えながらハリウッド映画論にもなっている。

 ユーモアもある。「第三の男」のあまりにも有名なセリフ「スイスは何を作ったか、鳩時計さ」について。本当は鳩時計を作ったのはドイツ人で、そのためスイス人から文句がきたと語るのは愉快。映画作品をはじめ監督、スターの名が次々に語られる。日本では知られていない者も多い。そのため訳注が実に丹念に作られている。訳注だけで一冊の本にしてもいい。

※週刊ポスト2022年11月18・25日号

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