現在は音楽アーティストとして注目を集めるシャンユー
「きっと“いい人”なんでしょうけど、長くいるなかで『私が全部ここのことは分かっているので』みたいに断定的なところが気になるようになったんです。なんというか、住人の気持ちを聞かずに『彼らにはこう接するのが良い』と決めつける人も中にはいて、そういうボランティアの人たちとは距離を取るようになっていきました」
ドヤ街は社会の映し鏡
このように物怖じせずに寿町に通い、溶け込んでいったシャンユーだが、本人いわく“何に対しても疑ってかかる”性格で、子供の頃から基本的には他人との交流があまり得意ではない人生だったという。にもかかわらず、吸い寄せられるようにおよそ50も年の離れた親友との関係を深めたのはなぜか。
「寿という街は裏表が少ないように感じます。ヤマさんは口が悪いし、早口でバーっと言いたいことをまくしたてるけど(笑)、思ったことはすべて包み隠さずに話してくれる。もちろん『お前の髪型は変だ』みたいに言われることもあるけど、後ろ指を指されたり、取り繕って褒められるよりはよっぽど気持ちがいい。私は何においてもまずは疑ってかかるくせに好奇心が旺盛という面倒くさい性格で(笑)。他人との距離感を掴むのが下手でコミュニケーションの取り方で悩むことが多かったので、来る者拒まずで輪郭が分かりやすかったこの街に水が合ったのかもしれません」
寿町でその日、その日をシンプルに楽しむ人たちの姿に感銘を受けた一方で、ここ数年は「社会の厳しさがそのまま反映される街だ」と感じる場面にも直面した。
「元々炊き出しに来るのは、おじさんやおじいさんという雰囲気の人ばかりだったのですが、コロナ禍に入ってからは私より少し上くらいの“働き盛り”に見える世代の人の姿も数多く見るようになりました。女性も以前より見かけるようになった気がします。コロナ禍で日雇いの仕事がなくなったり、理由は様々だと思うのですが、寿町という街が社会情勢の映し鏡というか、ダイレクトに直結する街だという側面を垣間見た気がしました」