「英語が話せるようになったら、敬子ちゃんも世界中の人と話せるようになるわ」
「世界中の人と?」
「そうよ。英語は世界の公用語だから、世界の国の人と話せるの」
知らなかった。そうなのか。であるのに、戦時中は「敵性用語」だと言って、一般国民が英語を使うことを闇雲に禁じていたのだ。それで戦争に勝てるはずがなく、むしろ英語を理解して、諸外国の味方を増やすべきだった。英語を駆使して敵を欺くことだって出来ただろう。「そりゃあ、連合軍と戦って勝てっこない」と小学生の敬子も嘆息するしかなかった。
その日から敬子は生きた英語を教わるようになった。せめて、彼らが話している内容を理解出来るようになりたい。小学校を卒業するまでに、会話に不自由しないレベルまで達したい。
この頃、敬子の将来の夢は決まった。
「外交官になって世界中を飛び回りたい」ということである。
(文中敬称略。以下次回、毎週金曜日配信予定)