ライフ

【新刊】漫画家挫折、先輩作家との交流を小説として語る山田詠美新作など4冊

宇野千代の『生きて行く私』に励まされた“私”。芥川賞に反対し続けた選考委員の実名が気になる

宇野千代の『生きて行く私』に励まされた“私”。芥川賞に反対し続けた選考委員の実名が気になる

 1年の中でも特に忙しくなる師走。ちょっとした息抜きに、暖かい部屋で読書などいかがですか? この時期におすすめの新刊4冊を紹介します。

『私のことだま漂流記』/山田詠美/講談社/1815円
初めて書き上げた小説『ベッドタイムアイズ』でデビューした著者。鮮烈な書き出しと完璧な文体に興奮した感動は今も忘れられない(男達の反発は理解不能だった)。「小市民的な会社員の娘」の律儀さで唯一無二のストーリーを紡いできた著者が、洋楽、サガン、漫画家挫折、夜遊び、福生、恋人の事故死、米軍人との結婚と別れ、先輩作家達との交流などを「小説」として語り尽くす。

次世代コンピューターの実用化を巡り、米中なども参戦する各国利益のもつれ合い

次世代コンピューターの実用化を巡り、米中なども参戦する各国利益のもつれ合い

『タングル』/真山仁/小学館/1870円
喝采を送る。いまいましい老害を退治する物語に(自分も老害ですけどね)。光量子コンピューター開発で一歩先行く早乙女教授に告げられた科研費減額。シンガポールの誘いで研究室を移し、潤沢な予算でブレイクスルーを果たすが、両国の“国益因業ジジイ達”が暗躍し始め……。国益の反対語は普遍的な理念。理念なき国益は国家の品位を落とすのだ。

父の歴史を知れば知るほど、自分が透明になっていくと感じる著者

父の歴史を知れば知るほど、自分が透明になっていくと感じる著者

『猫を棄てる 父親について語るとき』/村上春樹/絵・高妍 文春文庫/726円
親の死後もっと話を聞いておけばよかったと後悔する。著者の場合は父の所属連隊名を誤解し、詳細を知るのが重かった。血生臭さで評判の連隊だったから。父90才の時に和解、没後に父の足跡を辿る。ぐっとくるのは父を歴史に還し、歴史の本質は「引き継ぎ」にあるとする点。俳人でもあった父は開戦前夜に詠んだ。「鹿寄せて唄ひてヒトラユーゲント」。著者の好きな映像句だ。

さっと読みではもったいない。年末年始のじっくり読書にどーぞ

さっと読みではもったいない。年末年始のじっくり読書にどーぞ

『この世界の問い方 普遍的な正義と資本主義の行方』/大澤真幸/朝日新書/1001円
コロナ禍やウクライナ戦争、「台湾有事は日本有事」など、バッドニュースの多かったこの2年半。これらの出来事を論じる時事評論集で、副題の「普遍的な正義と資本主義の行方」という視座で世界を整理する。同じナショナリズムでも、ロシアのそれ(西への劣等感)、日本のそれ(国益一辺倒)、中国のそれ(中華思想)と発生源が違う。米中の覇権争いが日本の未来を決めそうだ。

文/温水ゆかり

※女性セブン2023年1月1日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

亡くなったことがわかったシャニさん(本人のSNSより)
《ボーイフレンドも毒牙に…》ハマスに半裸で連行された22歳女性の死亡が確認「男女見境ない」暴力の地獄絵図
NEWSポストセブン
長男・正吾の応援に来た清原和博氏
清原和博氏、慶大野球部の長男をネット裏で応援でも“ファン対応なし” 息子にとって雑音にならないように…の親心か
週刊ポスト
殺害された谷名さんの息子Aさん
【青森密閉殺人】手足縛りプラスチック容器に閉じ込め生きたまま放置…被害者息子が声を絞り出す監禁の瞬間「シングルで育ててくれた大切な父でした」
NEWSポストセブン
竹内涼真と
「めちゃくちゃつまんない」「10万円払わせた」エスカレートする私生活暴露に竹内涼真が戦々恐々か 妹・たけうちほのかがバラエティーで活躍中
女性セブン
史上最速Vを決めた大の里(時事通信フォト)
史上最速V・大の里に問われる真価 日体大OBに囲まれた二所ノ関部屋で実力を伸ばすも、大先輩・中村親方が独立後“重し”が消えた時にどうなるか
NEWSポストセブン
2050年には海洋プラスチックごみが魚の量を上回ると予測されている(写真/PIXTA)
「マイクロプラスチックが心臓発作や脳卒中の原因になりうる」との論文発表 粒子そのものが健康を害する可能性
女性セブン
攻撃面では試行錯誤が続く今年の巨人(阿部慎之助・監督)
広岡達朗氏が不振の巨人打線に喝「三振しても威張って戻ってくるようなのが4番を打っている」 阿部監督の采配は評価するも起用法には苦言
週刊ポスト
大谷が購入した豪邸(ロサンゼルス・タイムス電子版より)
大谷翔平がロスに12億円豪邸を購入、25億円別荘に続く大きな買い物も「意外と堅実」「家族思い」と好感度アップ 水原騒動後の“変化”も影響
NEWSポストセブン
杉咲花
【全文公開】杉咲花、『アンメット』で共演中の若葉竜也と熱愛 自宅から“時差出勤”、現場以外で会っていることは「公然の秘密」
女性セブン
被害者の渡邉華蓮さん
【関西外大女子大生刺殺】お嬢様学校に通った被害者「目が大きくてめんこい子」「成績は常にクラス1位か2位」突然の訃報に悲しみ広がる地元
NEWSポストセブン
京急蒲田駅が「京急蒲タコハイ駅」に
『京急蒲タコハイ駅』にNPO法人が「公共性を完全に無視」と抗議 サントリーは「真摯に受け止め対応」と装飾撤去を認めて駅広告を縮小
NEWSポストセブン
阿部慎之助・監督は原辰徳・前監督と何が違う?(右写真=時事通信フォト)
広岡達朗氏が巨人・阿部監督にエール「まだ1年坊主だが、原よりは数段いいよ」 正捕手復帰の小林誠司について「もっと上手に教えたらもっと結果が出る」
週刊ポスト