芝居の経験すらなく「大河ドラマは全く、想像の範囲外でした」と明かす(C)NHK
「あなたの動きは幼稚園だ」と言われて
初のドラマ出演が時代劇ということも、「緊張する暇」を奪った要因かもしれないという。
「役柄が武士ですから、立ち居振る舞いも全くわかりません。クランクインする前から日本舞踊の先生に所作の指導を受けました。まわりの役者さんは殺陣の稽古などをやってらっしゃる方々なので、比較するものでもないのですが、僕自身のレベルの低さを痛感しました。
所作って人柄とか人間性が出てしまうんですね。日本舞踊の先生には『あなたの動きは幼稚園だ』って、『一人前の武士なんだからもっと大人の動きをしなさい』って(笑)。歩き方ひとつにしても、なんというかよちよち歩きというか、先生には『意識をおへその下の丹田に持っていって、堂々と足を地につけて歩きなさい』と言われました。そういう言葉を手がかりに、だんだんと武士の所作を身に着けていきました。
よく『演技は難しいでしょう』って言われるんですけど、とにかくすべてが初めてだし、全てがチャレンジでした。だから自分自身の演技が正解なのかどうかもわからない。とにかく『こういうとき仁田忠常ならどういう気持ちだろう』ということを一生懸命考えて、悲しい気持ちであれば素直に悲しい気持ちに、嬉しいのなら素直に嬉しい気持ちを解放してみよう。そんなふうにやっていただけだから、難しいのかどうかすら、そういうことを感じることができるレベルですらなかったんですよね」
そんな高岸さんが演じた仁田忠常は、敵味方の様々な策略に巻き込まれ、最期は自害を遂げることになる。
「正直、(演技)プランというところまで考えることはできなかった。そこまで頭を使える人間でもありませんしね(笑)。ただただ、その場にいた仁田さんならこういう気持ちだろうと、自分の中でその気持を噛み砕いて、放出するという繰り返しでした。
実は、僕の自害のシーンは台本にはなかったんです。追い詰められて、思いつめて自害を決心するシーンがあって、次のカットは遺体に筵(むしろ)がかけられている──というものでした。でも当日、現場のスタッフの皆さんが、『やっぱりきちんと最期を遂げてもらいましょう』という話になって、『高岸さんいかがですか』って言ってくれました。
もちろん仁田忠常を応援するという気持ちがあったので、『ぜひやらせてください』と、こちらからもお願いして、あのシーンが成立しました」