ライフ

【書評】気鋭の記者と国際政治学者の対論集 ウクライナ戦争は落とし所のない消耗戦に

『ウクライナ戦争と米中対立 帝国主義に逆襲される世界』

『ウクライナ戦争と米中対立 帝国主義に逆襲される世界』

【書評】『ウクライナ戦争と米中対立 帝国主義に逆襲される世界』/峯村健司+小泉悠+鈴木一人+村野将+小野田治+細谷雄一・著/幻冬舎新書/1210円
【評者】嵐山光三郎(作家)

 気鋭の新聞記者峯村健司と国際政治専門学者五人の対論集。米中対立のリアルがわかりやすく示される。戦後日本の80年間は、ほとんど奇跡といえる経済復興をしたがこれからはどこへむかうのか。

 前半の小泉悠はロシアの軍事に詳しく、ウクライナとの戦争はさらに長期化すると予測する。かつての独ソ戦は四年がかりで二〇〇〇万人以上の国民を死なせた。峯村氏の話も具体的で、勉強になった。プーチンの父親の秘密。中国の習近平が国家主席に就任したとき、モスクワへ呼び、習氏の父習仲勲の映像を見せた。その後の裏話がつづられる。

 いまはロシアの国力が落ちて、ウクライナ軍のほうが優勢に見えるが、国際政治の情報操作と戦略は、小説を読むより複雑怪奇である。プーチンは崩壊したソ連帝国の戒厳司令官の立場で、政治家や経済人を粛清してきたから、権力を手放した瞬間に捕まる。

 習近平も反腐敗キャンペーンで二〇〇万人以上の政敵を拘束・処分した怨みを買っている。国際政治の世界は、友好的につきあいつつも「舐めてるとぶっ殺すぞ」という恫喝がある。それぞれの国の民族が自尊心と経済的収益に火花を散らしている。日本はアメリカに安全保障を委ねてきたので、軍事費分担を迫られている。ロシアは台湾海峡の有事には巻きこまれたくないし、中国もクリミア半島には興味がない。日本人の多くは心情的にウクライナを応援している。

 ウクライナとロシアの戦争は、「落とし所」がない消耗戦になりそうだが、小泉氏は「白人が犠牲になって同情を寄せられる」状況にとまどっている。日本は一〇〇〇人以上のウクライナ難民を受け入れているが、チェチェンやシリア人たちは、難民申請をさせてもらえず茨城県牛久の入管施設に収容されている。日本人の内なる差別性みたいなものをグサッと突きつけられた気がして「この差は何なのだ」と考える。小泉氏の独白に胸をつかれた。

※週刊ポスト2023年1月1・6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

若手俳優として活躍していた清水尋也(時事通信フォト)
「もしあのまま制作していたら…」俳優・清水尋也が出演していた「Honda高級車CM」が逮捕前にお蔵入り…企業が明かした“制作中止の理由”《大麻所持で執行猶予付き有罪判決》
NEWSポストセブン
「正しい保守のあり方」「政権の右傾化への憂慮」などについて語った前外相。岩屋毅氏
「高市首相は中国の誤解を解くために説明すべき」「右傾化すれば政権を問わずアラートを出す」前外相・岩屋毅氏がピシャリ《“存立危機事態”発言を中学生記者が直撃》
NEWSポストセブン
3児の母となった加藤あい(43)
3児の母となった加藤あいが語る「母親として強くなってきた」 楽観的に子育てを楽しむ姿勢と「好奇心を大切にしてほしい」の思い
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
神戸ストーカー刺殺“金髪メッシュ男” 谷本将志被告が起訴、「娘がいない日常に慣れることはありません」被害者の両親が明かした“癒えぬ悲しみ”
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
木瀬親方
木瀬親方が弟子の暴力問題の「2階級降格」で理事選への出馬が絶望的に 出羽海一門は候補者調整遅れていたが、元大関・栃東の玉ノ井親方が理事の有力候補に
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン