世界最大かつ最も標高の高いチベット高原は、アジアの約20億人の人々にとって重要な水資源で「アジアの給水塔」とも呼ばれている。しかし、インドなど南アジア地域で排出される大気汚染物質である黒色炭素(ブラックカーボン)によって、チベット高原の氷河が2050年までに消滅する可能性があることが中国科学院西北環境資源研究所の調査によって明らかになった。香港の英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」が報じた。
ブラックカーボンは化石燃料である石炭や石油の燃焼により発生し、太陽エネルギーを吸収して周囲を暖め、地球温暖化の原因となっている。
ブラックカーボンが氷や雪に付着すると、氷などの表面の太陽光の反射を低下させ、表面を熱して氷河の融解を早めることが分かっている。北極や南極、ヒマラヤなどの氷に覆われた地域は、ブラックカーボンの影響を受けやすいとされる。
南アジア諸国は世界でも有数のブラックカーボン排出国が集まっている。とくに、インド亜大陸から排出されたブラックカーボンは風の対流によってチベット高原に運ばれ、研究者が「直接効果」と呼ぶ氷河の融解を悪化させるという。
さらに、ブラックカーボンが大気中に集まると、雨を降らす雲が発生しにくくなることも分かっている。中国科学院の研究者グループが1961年から2016年までの降水量データを分析したところ、南チベット高原の夏の降水量は2004年から減少し始めたことが判明したという。
チベット高原の降雨量が減れば、氷河のもとになる水が少なくなり、それに伴って氷河自体も小さくなるのは必然だ。この二つの原因の相乗効果によって、氷河が急速に消滅しているというのだ。
研究者グループが11月30日付の学術誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に投稿した研究成果によると、2007年から16年までの10年間で、ブラックカーボンによって、チベット高原南部の氷河の11%、ヒマラヤの氷河では22%も、それぞれ消滅したという。
さらに、「インドを中心とした南アジアではブラックカーボンの排出量が今後もさらに増加すると予想されており、チベット氷河は2050年までに消滅する可能性がある。『アジアの給水塔』を守るために、南アジアでのブラックカーボンの排出量を減らすことが急務だ」としている。