俳優として長生きできた理由

街頭でほほえむ前田さん(撮影/山口比佐夫)

街頭でほほえむ前田さん(撮影/山口比佐夫)

 個性豊かな俳優が数多いるなかで、人気作に長く出演し続けられる俳優は少ない。秘訣はどこにあったのだろう。

「調子に乗らないことですね。良いときも、『浮かれていたら、あとで苦しい目をみるぞ』と、いつも自分を戒めていました。橋田先生の作品はほかのスケジュールを優先し、お断りしたこともありましたが、基本的にはスケジュールが許せば仕事は選びませんでした。というのは、40、50代の頃から、いつか俳優の仕事ができなくなるときがくるな、と思っていたんです。だから、嫌だなあと思う役も演じたし、バラエティーも出たし、司会もナレーションもやりました。

 バラエティーでは、中南米・コスタリカにケツァールという鳥を探しに、10日間ぐらいロケに行って、ワニが出る川を泳いで渡ったり、サソリが出る小屋で仮眠をとったりしたのに、帰国してみたらプロダクションがつぶれてギャラがもらえなかった、なんてこともありました。それでも、撮影の現場が好きだし、自分は仕事に恵まれ、いい人たちに出会えたと思っています」

 謙虚なのは、苦労した幼少期があったからなのだろうか。

「いや、苦労しても変な道へ行く人もいるから、生来のものじゃないですか(笑)。僕はもともと、役者にこだわっていたわけでもないんですよ。本当は、落語家でも漫談家でも良かった。でも、僕の話じゃ笑えないから、生活や子育てのための手段として、役者という仕事をしてきた、というのが役者をやってきた一番の理由なんです。自分では、役者としては65~75点だと思っています」

(了。前編から読む

取材・文/中野裕子(ジャーナリスト)

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