腸がさまざまな病気につながる中で明るい兆しもある。「腸内環境を改善したら病気を防げるのでは」との考えに基づく治療法が出てきたのだ。
「腸内細菌を入れ替える『糞便移植』です。抗生物質で患者の腸内の菌を一掃し、家族などドナーとなった人の便を希釈して、患者の腸に注入します。すると腸内細菌が一新され、潰瘍性大腸炎など脳腸相関による病気を治療できます。脳に由来する腸の病気をばい菌でカウンター攻撃する治療法です」
海外からは驚きの報告も。
「うつ病の患者に糞便移植をしたら症状が改善したとの報告が複数あります。小規模の試験で効果は未知数ですが、期待は持てる。実際にアメリカでは、よい菌をバランスよく持っている便を高値で買ってくれるそうで、腸内細菌の奪い合いが起こっていると聞きました」
特定の病気の引き金となる腸内細菌がわかれば、病気の予防や治療薬の開発につながる。また、冒頭の研究のようにマウスのやる気を刺激する腸内細菌がわかれば、うつ病や依存症の治療につながる。脳腸相関はまだ新しく活発な研究が進む分野だけに、将来に希望が持てるのだ。松生さんも治療への期待を語る。
「便秘に悩み、心療内科で抗うつ剤を処方されている患者がいましたが、便秘の治療をして改善すると暗かった表情が明るくなっておしゃべりするまで回復しました。現場で診療する私の実感では、腸のストレスが脳に影響を与えている患者が相当数います。腸内環境を改善すれば、脳や心の病気が治せるかもしれません」
偏った食事は腸にストレスを与える
病気を防ぐためにまず大切なのは腸の状態を把握することだ。便通の乱れ以外に、危険なサインはあるだろうか。松生さんは腸がストレスを感じる5大原因があると語る。
「最初が『栄養バランスの偏った食事』で、糖質や脂質の摂取が増えて野菜が減ると、腸は酸化ストレスでダメージを受けます。また『寒暖差』が大きいと大腸の動きが低下して便秘になったり、体温が低下して下痢を起こす人が出ます。
『緊張状態』が続くと交感神経が優位になって腸の動きが制限される時間が続き、便秘になりやすい。さらに『慢性的な運動不足』でも大腸の動きが悪くなり、『不規則な生活』によっても自律神経のバランスが乱れます」