できないことは、できなくてよろしい
あらゆるものには仏性があり、あなたを生かしてくれています。御自身の実力を存分に発揮できる環境。困難に立ち向かうモチベーションを掻き立ててくれる環境。気持ちがよくなる環境。もしも、そんな環境に恵まれていたら、あなたの悩みのほとんどは解決に向かうかもしれません。あるいは、自分にはそんな環境など望めない、とおっしゃるでしょうか。
生真面目なかたほど、悩みを打ち固めてしまいます。身近なかたに思いをいたし、自分の悩みに巻き込んでしまっては申し訳ないと、胸中に抱え込んでしまいがちなのです。そんなときは、一度で構いませんので、私の言葉に耳を貸していただけませんでしょうか。
掃除は、あくまでも気晴らしです。たいそうなことを申し上げようというのでもありません。気が紛れる。ひととき悩みを忘れる。その程度のことでも無駄ではないと思うのです。
完璧な人間など、世界のどこにも存在しません。千日回峰行では、生身の不動明王さまを感得することを目指します。けれど、その化身であるはずの蓮華傘は、編んでくれたかたによって、それぞれ上下左右に歪みが生じております。私はいまでも編みますが、完璧にはほど遠い出来栄えです。
しかし、それでよいのです。私はよいと思っています。私たちが住むこの世界、山川草木にまで仏性の遍在する不完全な世界は、それぞれが味を持つ世界なのです。完璧な人間などいないように、完璧なものも存在しません。
掃除も同じでしょう。私は、あなたに、身近な環境を整えていただきたいと願います。けれど、できないことは、できなくてもよろしい。単行本『心を掃除する』では、掃除をめぐるお話を申し上げました。私なりのお話です。
突き詰めたくなったかたは、どうぞなさってください。そうでないかたは、やる気になった部分だけでも、どうぞ。長所をもって、短所をおぎなう。気楽になさるのが一番です。
※『比叡山大阿闍梨 心を掃除する』より一部抜粋
【プロフィール】
光永圓道(みつなが・えんどう)/1975年生まれ。1990年に15才で得度受戒。2000年に延暦寺一山・大乗院住職に・2009年、千日回峰行を満行し北嶺大行満大阿闍梨となる。現在は、大乗院住職、覚性律庵(滋賀県大津市仰木4-36-20)住職。光永圓道大阿闍梨が、仏門の修行と千日回峰行の荒行を経て到達した「心地良く生きるための作法」を説いた『比叡山大阿闍梨 心を掃除する』が発売中。