ライフ

地球上から唯一根絶された感染症「天然痘」 平城京では大流行、多くの犠牲者も

天然痘の歴史を振り返る(イラスト/斉藤ヨーコ)

天然痘の歴史を振り返る(イラスト/斉藤ヨーコ)

 人間は様々な感染症とともに生きていかなければならない。だからこそ、ウイルスや菌についてもっと知っておきたい──。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、天然痘についてお届けする。

 * * *
 有史以来、人類は天然痘と共に歩んできました。

 天然痘は、天然痘ウイルスの感染によって起こります。天然痘ウイルスに曝されれば感染・発症し、生き残った人々も失明などの後遺症を残す場合も多かったのです。

 その天然痘は、世界中で予防ワクチンが接種されたことによって1977年に地球上から唯一根絶された感染症となっています。しかし、歴史を振り返ればそれまでに戦争以上に人々を殺し、人類の人口の10分の1が天然痘の犠牲になってきたともされます。20世紀だけでも3億人が天然痘で亡くなっています。

 天然痘ウイルスは口や鼻から侵入、その粘膜で増え、次にリンパ節で増殖し、脾臓、肝臓、肺などでまた増殖を繰り返します。症状は激烈で、致死率は2~5割にも上ります。この致死率の高さから、昔は天然痘にかかって生き残るまでは、生まれた子供を人数として数えないという慣習もあったほどです。

 感染者は高熱、頭痛、腹痛、嘔吐などの症状を出し、さらにウイルスは皮膚に向かい、特徴的な発疹を出すのです。発疹は皮膚全体に拡がり膿疱となって、命が助かっても生涯残る痘痕を残します。

 流行の激しかった江戸時代には、天然痘は“見目定め”と言われました。それはヨーロッパでも同じで、天然痘が流行を繰り返す社会で発疹の痕のない肌は貴重とされ、女性にとってそうした顔は「財産」だと農村の牛乳しぼりの女性を謳った童謡にも残されています。

 さて、天然痘はいつ日本にやってきたのでしょうか。いつの世も病原体は人の移動・交流によってもたらされます。

 仏教は538年に百済から伝来していますが、同時期に天然痘も持ち込まれたとされています。「日本書紀」には552年から587年に疫病が突然流行したと記されており、その症状は天然痘に酷似しています。隋や唐時代に中国を経て移入されたササン朝工芸や仏教美術は、東大寺の正倉院にその影響をみることができますが、飛鳥、天平文化はシルクロードを見はるかす芸術文化、仏教文化であり、そうして花開いたのが奈良の都でした。

関連キーワード

関連記事

トピックス

体調を見極めながらの公務へのお出ましだという(4月、東京・清瀬市。写真/JMPA)
体調不調が長引く紀子さま、宮内庁病院は「1500万円分の薬」を購入 “皇室のかかりつけ医”に炎症性腸疾患のスペシャリストが着任
女性セブン
被害男性は生前、社長と揉めていたという
【青森県七戸町死体遺棄事件】近隣住民が見ていた被害者男性が乗る“トラックの謎” 逮捕の社長は「赤いチェイサーに日本刀」
NEWSポストセブン
タイトルを狙うライバルたちが続々登場(共同通信社)
藤井聡太八冠に闘志を燃やす同世代棋士たちの包囲網 「大泣きさせた因縁の同級生」「宣戦布告した最年少プロ棋士」…“逆襲”に沸く将棋界
女性セブン
学習院初等科時代から山本さん(右)と共にチェロを演奏され来た(写真は2017年4月、東京・豊島区。写真/JMPA)
愛子さま、早逝の親友チェリストの「追悼コンサート」をご鑑賞 ステージには木村拓哉の長女Cocomiの姿
女性セブン
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
睡眠研究の第一人者、柳沢正史教授
ノーベル賞候補となった研究者に訊いた“睡眠の謎”「自称ショートスリーパーの99%以上はただの寝不足です」
週刊ポスト
NHK次期エースの林田アナ。離婚していたことがわかった
《NHK林田アナの離婚真相》「1泊2980円のネカフェに寝泊まり」元旦那のあだ名は「社長」理想とはかけ離れた夫婦生活「同僚の言葉に涙」
NEWSポストセブン
公式X(旧Twitter)アカウントを開設した氷川きよし(インスタグラムより)
《再始動》事務所独立の氷川きよしが公式Xアカウントを開設 芸名は継続の裏で手放した「過去」
NEWSポストセブン
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
女性セブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン
林田理沙アナ。離婚していたことがわかった(NHK公式HPより)
「ホテルやネカフェを転々」NHK・林田理沙アナ、一般男性と離婚していた「局内でも心配の声あがる」
NEWSポストセブン
猛追するブチギレ男性店員を止める女性スタッフ
《逆カスハラ》「おい、表出ろ!」マクドナルド柏店のブチギレ男性店員はマネージャー「ヤバいのがいると言われていた」騒動の一部始終
NEWSポストセブン