国内

日本の「食料危機」を回避するために 消費者がまず取り組むべきは「国産の安全な食品を選ぶこと」

安全に育てられた

食料危機回避のために選ぶべき食品とは(写真/PIXTA)

 日本が迎えている“食料危機”に対して最も大きな力を持つのは、間違いなく消費者である──それは過去の事例からも証明されるだろう。安全な食卓を手にするために、いまこそ立ち上がるべき時なのかもしれない。短期連載最終回となる今回は、東京大学教授・農業経済学者の鈴木宣弘さんが、食料危機を回避するためにいまできることについて綴る。(短期連載第3回。第1回から読む

 * * *
 37%と世界最低水準の食料自給率であり、“胃袋を海外に占領された”状態の日本には、危険な食品が次々に輸入され、ホルモン剤や農薬にまみれた野菜や肉がスーパーに並ぶ。私たちをさらに追い詰めるのが、コロナ禍、ウクライナ紛争、中国の爆買い、異常気象の「クワトロ・ショック」だ。

 クワトロ・ショックの深刻化によって物流の停滞や食料価格の高騰で輸入食品の流通がストップすれば、国産食品だけでは到底食卓をまかなうことはできず「3食芋だけ生活」がやって来る──。

 筆者は過去2回にわたってそのリスクをお伝えしてきたが、現実はさらにシビアであると言わざるを得ない。

 負のスパイラルを打破する解決策はどこにあるのか。

子供はコオロギ食の「実験台」なのか

 昨年11月、今年2月と2度にわたって徳島県の高校給食で「コオロギ食」が提供されたことが物議をかもしている。日本ではここ数年、「世界的な食料危機を救う救世主」としてコオロギ食がもてはやされ、お菓子やパンに練り込むパウダーが開発されるなど、研究が進んでいる。

 国もそれをサポートする方針を示しており、実際にSDGs関連費として莫大な予算が計上されるとの声もある。

 しかし、イナゴなど昆虫食の習慣は古くからあるものの、コオロギに関しては未知の部分も多い。体に悪影響がないとは言い切れず、子供たちをそんな食品の「実験台」にしていいのか。

 何よりも不気味なのは、クワトロ・ショックなどの影響でいざ食料がなくなったとき、「芋だけ生活」を通り越して、将来、昆虫食を食べて飢えをしのぐ状況が示唆されていることだ。

 海の幸も山の幸も豊富な「和食」はユネスコの無形文化遺産に登録されるほどのブランド力を持つ。多彩な食が楽しめるはずだった日本はいま、なぜこんな状態に陥っているのか。

 そのいちばんの原因は、政府による「セルフ兵糧攻め」だ。自分で自分の首を絞めるような食料政策は深刻だ。日本の政治家たちは国際情勢が悪化し、世界的に食料危機の懸念が高まる中で食料自給率を上げようとしないばかりか、むしろ国内の生産力をそぐような政策ばかりをとっている。

 特に現在大きく問題視されているのは、先々週号(『女性セブン』2023年3月16日号)でも触れた通り3月からスタートした「9月までに乳牛を1頭殺せば酪農家に15万円を給付する」という助成金制度だ。

 確かにいま、牛乳は大量に余っているうえに、酪農家の98%が赤字であるのは事実だ。しかし、彼らの“財産”である牛を殺すことは決して得策ではない。

 しかも日本政府は、このように国内の酪農家が危機に瀕している中で1年に13.7万tずつの牛乳を輸入し続けている。北海道だけでも14万tの生乳の減産をしているのにもかかわらず、である。

 そうした「セルフ兵糧攻め」は米農家にも及ぶ。牛乳と同じく、コロナ禍で米余りが深刻だったにもかかわらず、政府は補てんや支援を一切しないどころか、実に毎年77万tを最低輸入量として輸入し続けているのだ。しかも、アメリカから輸入している米は国産の1.5倍に値上がりしている始末だ。

 政府はそうした牛乳や米の輸入を、「GATT」と呼ばれる関税や貿易に関する国際的な協定の取り決めによるものだと説明しているが、実際にはそんな規定はなく、どの国も日本ほどの量を輸入していない。

 日本だけが、アメリカの怒りに触れることを恐れ、輸入を止めることができないのだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト