「次のWBC」を目指して
173センチ、73キロという小柄な身体の辻井は、高知高校から2021年のドラフトで阪神に1位入団した森木大智に憧れ、高知高校を進学先に選んだ。右腕をコンパクトに畳んで強く振り、回転数の多いスライダーやカットボールを得意とする。タイプとしてはオリックスの山岡泰輔に近い。
古くは早稲田実業の荒木大輔(元ヤクルトほか)、最近では近江の山田陽翔(2023年埼玉西武5位)など、甲子園のマウンドで奮闘する下級生には、ひときわ温かい視線が送られ、ひとたび活躍すれば一気にスターダムへ駆け上がっていく。高知高校は2回戦で大阪の履正社を退け、3回戦では好投手の平野大地を擁する専大松戸(千葉)と対戦。接戦となった両試合で辻井は試合の最終盤に起用された。
二重まぶたで吸い込まれるような瞳の辻井は若き日の木村拓哉のよう。その一方で、マウンドでは度胸満点のピッチングスタイルを貫く彼に、専大松戸に敗れた試合後、直球質問した。
――全国中継される甲子園で3試合に登板した。甲子園映えする甘いマスクだから、反響も大きいのでは。
「『可愛い顔をしているね』とは言われるんですが(笑)。自分は楽しく、常に笑ってプレーしたいんですけど、今日は笑えなかったというか、引きつっている顔になっていた。ベスト8進出がかかった緊張感の中で、余裕を持って投げられなかった」
高知には高校日本代表の監督である馬淵史郎監督が率いる明徳義塾という最大のライバルが存在する。
「150キロに達するのが高校時代の目標です」と話す辻井の存在は、名将にとっても脅威だろう。
WBCに出場した村上宗隆らは、2009年の世界一を子供の頃に観て、侍ジャパンの一員になることを夢見て成長を遂げてきた。侍ジャパンが世界を相手に戦った日に、甲子園で過ごした球児たちには、野球人生におけるエポックメイキングな出来事になったのではないだろうか。
侍ジャパンの最年少は中日の高橋宏斗(20)で、3年前のコロナの感染拡大によって中止となったセンバツに出場するはずだった投手だ。WBCの次回大会が行われる3年後に、今春のセンバツに出場していた球児が選ばれていてもなんら不思議ではない。
◆取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)